ミラクル エッシャー展 行ってきた

@上野の森美術館

《メタモルフォーゼⅡ》1939-40年 木版 192*3875 (部分)

※写真は美術館の許可を得て撮影しています。

 

エッシャーと聞いて、あのだまし絵の人ね、と すぐイメージが浮かぶ方は多いと思います。
そう、「水が永久に循環する塔」や、「階段を登っていたと思ったら、いつのまにか降りていた。 な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…」という絵の人です。

《滝》1961年 リトグラフ 380*300

1970年に『少年マガジン』の表紙を飾ったこともあるエッシャー。日本でも有名なので、今回が初の展覧会というわけではありません。
ありませんが、2018年はエッシャー生誕120年という記念すべき年。「これはでかいことをやるしかない!」となったのでしょう。
なんと世界最大級のエッシャーコレクションを誇るイスラエル博物館から、選りすぐりの約150点が初来日!
しかも幅約4メートルの超大作《メタモルフォーゼⅡ》も来る!
チラシや図録も祖父江慎さんによる凝ったやつだわ、サンスポがいつものノリのままタブロイド出すわ、バカリズムが音声ガイドイメージソングはサカナクション、なんかもうめっちゃ金かかってる力入ってんな~~!! という濃密な内容。

とはいえ、展示はいたって大真面目です
そしてその真面目な視点がエッシャーの頭の中を解説し、同時に多くの人々が知らなかった画家の姿を浮き彫りにしていくという、なんとも謎解きのような雰囲気を作り出していたのでした。

会場風景
手前《天地創造の二日目》1925年 木版 280*377

 

▮8つのキーワードで読み解く 奇想の版画家・ エッシャー

本展にはエッシャーの初期から晩年までの作品が展示されていますが、とくに年代ごとには並んでいません。
「科学」、「聖書」、「風景」、「人物」、「広告」、「技法」、「反射」、「錯視」という8つのキーワードで、エッシャーがエッシャーになるまでを追っていくという構成になっています。

 

写真では分かりにくいですが、作品の隣にはこのように↓「〇歳の頃の作品だよ」と表示。何年の作品というより、〇歳の頃としてくれた方が分かりやすいのは私だけでしょうか……。
ともあれ題材ごとに画風が変わっていく様子もわかるし、この年代の頃にこの題材にはまっていたんだな~ということもよくわかります。

《貝殻》1919/1920年 木版 165*251

出品された作品のなかには意外な作風もあったりして、既存のイメージが刷新されるはず。
特に「聖書」や「人物」、「風景」の章には、エッシャーと言われなければわからないものもありました。また、戦争の前後で「人物」の捉え方が全く変わるのも印象的でしたね。

《椅子に座っている自画像》1920年 木版 195*170
《婚姻の絆》1956年 リトグラフ 257*335

↑技法や技術の問題もあると思うけれど、あきらかに描く題材が第二次世界大戦の前後では異なる。ファシズムに対する考えをはじめ、いろいろと思うところがあったのだろうなあ……。

 

 

▮イロモノのようでいて イロモノじゃない

科学的視点からの創造

作品のイメージからエッシャーに対し、イロモノ作家という印象を持っている方もいるかと思います。私はまさにそれで「トリックアートの人」的な位置で見ていたんだけど、ごめんなさい、エッシャーめっちゃ真面目でした。

これ、去年のアルチンボルド展と同じ展開だわ……。アルチンもエッシャーも知識とウィットがあったうえでこのスタイルをとっているというのが、作品を観れば観るほど伝わってくるのです。「エッシャー面白いな~ この家どうなってるんだろ?」から、「エッシャーさん  流石です」に変わるわけです。しかもかなり初っ端で。

もともとエッシャーは建築装飾美術学校で建築を学んでいたのだけれど、学校で版画家に出会ったのをきっかけに、建築そっちのけで版画沼にはまります。(お兄さんが学者だったり、お父さんがお雇い外国人として日本に来ていたりと、アカデミックな家庭だったようです)

《メビウスの輪Ⅰ》1961年 多色刷り木版、木口木版 238*259

はじめは聖書や風景を題材にしたりしているんだけど、次第に脳科学に通じる錯視を利用した表現に着手。時間を超越する数学的・幾何学的な疑問に取り組みます。
それは二次元平面をタイル状にすることは可能かというところから始まり、その表現が凹面、凸面の形状となった時にどうなるかを経て、三次元形態の構造に関する問題に至るという……なにやらこう書くととても難しい話に聞こえるのですが、要は二次元の状態でへこませたり、飛び出させたりしたら三次元構造を絵で再現できるんじゃね?ということを試みたのでしょう。

《バルコニー》1945年 リトグラフ 297*234

この《バルコニー》のように、エッシャーの絵に出てくる魚眼レンズのような表現からは、遠近法とは違う技術をもって三次元の形態を表現しているということが伝わってきます。彼は絵画(版画)というツールを使って三次元ないし多次元を二次元に落とし込もうとしている・もしくは、二次元から多次元を生み出そうとしていたのではないでしょうか
そう考えるとあの「水が永久に循環する塔」や「永遠に続く階段」にエッシャーが至ったのも頷けてくるわけです。するとね、今まで単なる「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」だと思っていたものが、途端に科学的な見識を盛り込んだ実験に見えてくるのです。(もちろん、あくまで私の勝手な感想ですが。)

 

結晶、鏡面、反射、錯視、そして正則分割、循環

そういった視点でエッシャーを観ていくと、彼があらゆる分野に興味を持ち、精通し、自ら研究していたことがわかります。
本展では「科学」にはじまり、「技法」や「反射」、「錯視」の章でそれを確認することができますが、その他の「聖書」、「風景」、「人物」、「広告」の章にも顕著に表れています。

特に「反射」の章では、《球面鏡のある静物》の背面の壁一面が鏡張りになっているので、会場で実際に”鏡”という二次元に落とし込まれた三次元を改めて観察することができます。
鏡に写る三次元の世界なんて見慣れているけど、エッシャーの世界を観たうえで改めて鏡に写った世界を見てみると、なんだかおかしな感じがしてくるので面白いですよ。

《球面鏡のある静物》1934年 リトグラフ 286*326

そしてエッシャーと言えば「正則分割(1つの図形を反転、回転させ、隙間なく並べる手法)」「循環」のコンボですが、今回の目玉にもなっている《メタモルフォーゼⅡ》
細長い(長さ約4メートル!)作品なのだけど、これ、本当に素晴らしかった!

《メタモルフォーゼⅡ》1939-40年 木版 192*3875(部分)

展覧会開催前から「最大の目玉は《メタモルフォーゼⅡ》です!」と公式が宣伝していたので、まあすごいんだろうなとは思っていたけれど、いや、正直ここまでとは思わなかった。
純粋に版画として観ても素晴らしいけれど、正則分割と循環がこんなにも美しく完成されているとは……!

《メタモルフォーゼⅡ》1939-40年 木版 192*3875(部分)

 

モティーフも素晴らしいし、赤と黒の配色も良い。そして最初と最後がきちんと繋がるところが最高にかっこよかった!!
エッシャーは数学者や科学者に人気があった(今もある)という話を聞くと、わかりみを感じますね。興味を持った世界についてあれこれ考えるだけでなく、こんなふうにアウトプットする人がいるんだと知ったら胸が熱くなるよ。あの人にはこの分野がこう見えているのか、そうきたか、的な感動があったはず。

 

おまけ:「エニグマ」はまさにエッシャーだった

ところで冒頭にてポルナレフのセリフを引用させていただいたのですが、本展の監修も務めていらっしゃる熊澤弘先生(東京藝術大学大学美術館 准教授)が図録で『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦 著)の第4部に出てくる「エニグマの少年」こと宮本輝之助のスタンド「エニグマ」を取り上げています。
言われてみればエニグマ、まさにエッシャーすぎるんですよね。

※ミラクル エッシャー展 図録より

図録ではこのページが紹介されていて、この表現はエッシャーの正則分割のオマージュだと思うのだけれど、スタンドの能力が「紙に閉じ込める」能力なのよな。三次元にあるものを二次元である紙に閉じ込めるって、まさにエッシャーのやっていることでは? と思ったのでした。

 

▮趣向を凝らしたグッズや音声ガイド、絵の中に入ることができる体験型映像コンテンツも

今回音声ガイドはバカリズムさんが努めています。また、展覧会公式イメージソングにはサカナクションの『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』を採用。これは社交が苦手だったエッシャーの唯一の趣味がバッハを聴くことに由来しているのだそうです。
このトラックは音声ガイドのプログラムに収録されているのですが、エッシャー作品となかなか合っていました。

グッズも豊富。東京  2020 オリンピック パラリンピックエンブレムを手掛けた野老朝雄さんをはじめ、さまざまなアーティストやショップとのコラボレーショングッズが豊富に揃っていました。

野老朝雄氏デザインによるグッズ。
個人的には正則分割を用いた団扇が良かったです。

また、出口手前には「ミラクル デジタル フュージョン」と題したエッシャーの代表作《相対性》の中に入りこめてしまう体験型映像コンテンツもあります。
私は照れが勝ってやらなかったのですが、結構みんなノリノリで楽しんでいたので、気になる方はぜひどうぞ。

↑こういう仕組みのようです。撮った映像は持って帰ることができます。

 

直近(といっても12年前)のエッシャー展は行っていないので、エッシャーをまとめて観たのはこれが初めてでしたが、かなりイメージが変わりました。
視覚の魔術師・エッシャーの頭の中を覗くような展覧会。とくに《メタモルフォーゼⅡ》は忘れられない作品として強く印象に残りました。
混雑しそうな予感がするので、ゆっくり見たい方・気になる方は、早いうちに行っておきましょう!

 

▮概要

生誕120年 イスラエル博物館所蔵
ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵

会期:~7月29日(日) ※会期中無休
会場:上野の森美術館
開館時間:10:00~17:00 毎週金曜日は20:00まで ※入館は閉館の30分前まで

★大阪、福岡、愛媛へ巡回予定

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