「日展」行ってきた

@国立新美術館

※写真は主催の許可を得て撮影しています。というか、日展は平日であれば、受付に撮影許可を申請することができます。

 

 

「日展」
もとい、改組 新 第4回日本美術展覧会
言葉は聞いたことがあっても、実際観に行ったことがある人はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
同じく「院展」も然り。日展、院展、創画会、独立、二紀などなど、日本には多くの「美術団体」が存在します。それぞれ日本画に特化、洋画に特化など特徴はありますが、「日展」に関しては5科を保有する国内最大級の団体となっています。(国画会が主催する国展も5科ですが、こちらは絵画、版画、彫刻、工芸、写真というラインアップ)

現在山種美術館で回顧展が開催中の川合玉堂も日展の作家。山種の会場に展示されている最後の日展出品作品《屋根草を刈る》は、まさに絵を自在に操れる人がたどり着いた境地そのものといえる作品です。

 

■日展とは?

 

●日展は5つのジャンルから成り立つ

聞きなれない5科という言葉。5科とは次の5つのジャンルに分かれた芸術を指します。

  • 日本画
  • 洋画
  • 工芸美術                                                                     
  • 彫塑

「書」が芸術分野として日展に含まれるようになったのは意外にも最近(昭和23年)です。
中国では書と画はセットで考えられることが多く、書に関しては画よりも先に芸術的価値を見出されていました。日本でも古くから書は大切にされてきましたが、明治時代になると内国勧業博覧会等の影響か、絵画や工芸の方に芸術的価値を高く置くようになり、明治のとある時期から戦後にかけて「書」は長らく芸術の分野から遠のいてしまいます。ですが日展への参加を機に再び書を芸術として広めていこうという動きが興り、多くの書道団体が活発に書の表現を研究するようになったと言われています。

●日展の歴史

これは公式HPに書いてあるので読んでいただくのが早い。

ざっくり言うと、もともとは「文部省美術展覧会(文展)」という名前で開催され、時代が移るにつれて「帝展」となり、その後「新文展」「日展」と名称を変えながら100年以上展覧会を続けて今日に至るのが日展の歴史。
もとは日本画・洋画・彫刻で構成された官制の展覧会。戦後は半官半民となり、昭和33年に社団法人となったのです。

 

●ほかにどんな団体がある?

上でも少し紹介しましたが、日本には多くの団体があり絵画においては下記などが主な団体。

  • 日本美術院(院展)……岡倉天心が興した日本画専門の団体。一度解散するも、日展と方向性が違った横山大観や下村観山によって復活。現在、春と秋に大きな展覧会あり。
  • 二科会……文展から分離東郷青児の発案により写真部が置かれる。現在絵画・彫刻・デザイン・写真の部から成る。
  • 二紀会……二科と名前がややこしいけど、旧二科会に所属していた熊谷守一らによって創設された。5つの主張は、なんとなくラファエル前派を髣髴とさせる。(内容は違いますが)
  • 国画会(国展)……上でも紹介しましたが、国展は日展と同じく5科を擁する公募展。こちらも元は文展。方向性の違いに分離を決意した小野竹喬土田麦僊が興した。
  • 一水会……旧二科会のメンバー、安井曾太郎石井柏亭が結成。
  • 白日会……絵画部と彫刻部で構成。写実画が多い。今人気の若手写実作家は白日会に所属していたりする。
  • 創画会……日本画に特化した団体。今年は寺田倉庫で東京展が開かれた。上村松園の孫・上村淳之がいる。
  • 独立美術協会……洋画に特化した団体。佐伯祐三らが開催した展覧会が発端となってできた。

まだまだほかにもたくさんありますが、だいたい東京都美術館国立新美術館で展覧会を毎週やっているので、そしてだいたい無料だったりするので気になる方はぜひ。会期はめっちゃ短くて平均1週間です。

 

 

■実際に観てきた

 

●とにかく体力勝負

公募展ってだいたいワンフロアかやってもツーフロアなんですが、日展に至っては新美術館の公募展用の会場全部使ってみっちりやるので、本気で全部観ようと思うと、それなりに体力が要ります。もし5科観るつもりで行くなら一日がかりで行く覚悟が必要。とはいえ一旦お昼やお茶休憩で外に出るのはOKなので、その都度チケットを買いなおす必要はないです。なのでコスパで言えばめちゃくちゃ良いです。
今回は仕事の繁忙期の合間に行ったのでじっくり見ることができませんでしたが、日本画を中心に感想を書きたいと思います。

 

 

●日本画

日展はただ会員が絵を展示するのではなく、賞が授与されるものとなっています。内閣総理大臣賞とか、東京都知事賞とか。で、今年はどんな作品が受賞しているかというと、こちら。

特選を受賞した服部泰一さんの《机上のスクランブル交差点》などは、今の若い日本画家のひとつの方向性を代表するものとして相応しい気がしました。
受賞作品ではありませんが、個人的に良かったと思ったのは森美樹さんの《羽音》山﨑隆夫さんの《雲映ゆる》。あと、現在東京都美術館にて開催中の「近代の写実展」にも出品している岩田壮平さんの作品も展示されていましたね。

さて、ここで公募展には行ったことがないという方は「自分の知ってる日本画と違う」と思われることでしょう。
私自身も公募展にちょいちょい行くようになるまでは違和感でいっぱいでした。
なんというか、余白のある絵がほとんど無いし、塗り方も長谷川久蔵の《桜図襖》よりももっとずっとモリっとしているのが多かったりする。ほとんどが100号超えのサイズであり、絹に描かれているものはありません。
なので、初めはちょっと受け入れにくいところもあります。
ですが、そもそも「日本画」とは何かと考えると、言葉自体はフェノロサが「西洋画」に対して作ったものであり、明治時代に生まれた概念なので、比較的新しい言葉になるわけです。ただ、画材の面で考えて岩絵の具や絹や膠を使っている=日本画とするならばもっと前の大和絵も含まれる。つまりすごく曖昧だし複雑です。
よって美術館や博物館で観る「昔の絵」と比べるとかなり違うけれど、日本画であることには違いない。普段博物館や美術館で鑑賞しているものに慣れていると違和感はあるかもしれないけれど、現代の日本画にはどういった絵があるのだろうという時代の流れとして観るとなかなか興味深く楽しめます。似た表現のものがいくつかあったりして「流行ってるのかな」とか、「こういう色使いをする人もいるんだな」とか。
そういった観点からみても、先ほど挙げた服部泰一さんの《机上のスクランブル交差点》には面白い要素がたくさんつまっていました。

しかし本当に量がものすごくてですね……。量もさることながら、いろんな絵がある。
そう、いろんな絵があるんですよ。で、「いろんなのがあるなあ」なんて思っていたら見たことのある人が会場を歩いていて、あら、土屋禮一先生(日展常務理事)
土屋先生とは仕事でお会いしたことがあったので、ご挨拶して「本展の見どころ」を聞いてみました。

●本展のみどころ

とはいえ普通の展覧会とは違うから、いきなり見どころを聞かれても困るかな……?と思っていたらやはり悩まれていて、あっ、スミマセン……と思ってしまったのですが、「自分の想いになっちゃうけど……」と照れ笑いをされ、以下のように話してくれました。(会って話すとわかるけど、土屋先生の照れ笑いは妖精のように可愛らしいのだ……)

「見て分かるとおり、たくさんの絵がある。そして、いろいろな絵がある。だから自分はこれをひとつの美術界における定点観測だと思っています。今、どんなふうに絵が推移していっているか、なにを描こうとしている人がいるか、毎年その動きをしっかり見るようにしています。

また、絵の中から作家の人物像を読み取るのも楽しみなんです。日展の会員は全国にいるからね、会ってみたいと思っても会えない人が多いし、話をすることもなかなかできない。でも、毎年出品される絵を観ていると、この人がこの1年で絵に対して何を思い、何を突きとめようとしていたのか、どう向き合おうとしていたのかが分かります。だから自分にとって日展は、年に一度作家たちに会う時間でもあるのです」

日展を観に行って、例えば気になる作家ができたとします。
その人が次の1年でどう変わっていくか。どう成長していくか。それを1年後の楽しみに、追い続けるという見方もあるということです。

また、土屋先生は、「大きな団体にいると良い面も悪い面もあるかもしれない。けれどそういうところをちゃんとして、できれば若い人たちに、この団体にいることで切磋琢磨できるなと思ってもらえたり、作品を作る励みや目標を持ってもらえるよう、我々は頑張らなくちゃいけない。良い団体としてみんながのびのびと成長できるように、一生懸命やるだけです」とも力強く仰っていました。

そんな土屋先生と、先生の作品はこちら。

土屋禮一《雄飛》
改組 新 第4回日展出品作品
190×190cm

青がひんやりと気持ちのよい青で、写真だとわかりにくいけれど黒の部分はまるで宇宙のよう。吸い込まれそうになりました。

 

 

●洋画

さて、正直日本画に時間をかけすぎたためにかなり駆け足になってしまった洋画以降……。
受賞作品はこちら。

受賞作品の中では熊谷有展さんの《Orange Symphony》はポスト印象派的で、そういえば他に印象派っぽい人がいなかったので新鮮でした。
好きだったのは吉崎道治さんの《窓から》。切り取り方も、モチーフの簡潔さも良かった。この作品は、こちらのページから見ることができます。

こういうところで良さげな作家を見つけて、次に個展をチェックするの、なんとなくコミケで表紙に惚れて買ってpixiv見に行って既刊を通販できるか調べるのに似ている気がする……。
あと、秋山たかしさんの《卓上静物》が良かったですね。なんかこう、攻めの絵が多い中で安心した。

秋山たかし 《卓上静物》

洋画と日本画を観ていて思ったけど、それぞれ「洋画でやる主題を日本画で」とか、その逆を試みている作品がちらほらあって、一部の近代日本画や近代洋画の巨匠たちが目指したものは脈として引き継がれているんだなあと思ったり。

 

 

●工芸美術

工芸も駆け足になってしまったんだけど、正直私は現代工芸、あんまり良くわからんのでして、三越でやった伝統工芸展とかああいう方が好きでした。けれど、南雲龍さんの《須恵媛》は良かったです。あとはもう門外漢すぎてどう観て良いか分からずで、ここは完全に勉強不足。

受賞作品はこちら。

 

 

●彫塑

彫塑も、あと次の書も完全に勉強不足なんですが、彫塑は女性像がやはり圧倒的に人気なんですね。今年文化功労者となられた雨宮敬子さんとか、夏に古川美術館で彫刻家として60年の回顧展を開かれた山本眞輔さんとか大御所をはじめ、凛として清らかな女性像が多い。そんな中でこういう彫刻を見つけると「お!」と思ってしまう。
上品で崇高な作品の多い中、体温を感じるというか。

丸太多賀美 《家族から》
改組 新 第4回日展出品作品
110×135×100cm

彫塑、会場はこのようにたくさん並んでおりますので、ひとつひとつ向き合うと結構面白いです。

また、巨匠ゾーンはこんなふうに一列ずらっと並んでいるので、わかりやすい。(各ジャンル、巨匠ゾーンがある)

彫塑はかなり面白いので、もっと時間をかけて観たかった。来年の課題ですね。
彫塑の受賞者はこちら。

 

 

●書

これも完全に門外漢というか字が中学生みたいな私には遠く及ばぬ世界なのですが、観ていくとだんだん好みの様式が絞られてくるのが面白かったですね。
書の受賞者はこちら。

こちらも閉館時間ギリギリになってしまったので全てしっかり見ることはできず……。
というのも、他の科もそうなんだけど、物量とパワーがすごいのよ。

でも日展はまだ良い方で、他の大きな書道団体が公募展やるときは完全にダンジョン化するくらい壁一面に書が並んで(特に新聞社主催のとか)……それはそれである意味圧巻なので、気になる方は国立新美術館の公募団体カレンダーをチェックしてみてください。

やはりここもド素人の私でも名前を聞いたことのある作家の作品が並んでおり、改めて日展は日本を代表する団体なんだなと。
そんなふうに思いながら今年の芸術院賞受賞者の高木聖雨さんの作品の前にいたところ、「撮影が入りますので、少し作品から移動していただけますか」と係の方が。

もう閉館時間間際だし、そろそろお暇すべきだなと思っていたので快く移動しようとしたところ、高木先生ご本人が。ああ、作品の前で撮影されるんだなと思っていたら、「行かなくていいですよ!せっかく(作品を)観に来ているんだから、一緒に観ましょう」と言う声が。
声の方を振り返ると、お子さんと一緒にいらっしゃっていた市川海老蔵さんの姿がありましてですね、おおお……!となりつつも、じゃあお言葉に甘えてとも言えないし、閉館時間もあるし、この後会社に行かなくてはいけなかったので会釈をして立ち去ろうとしたところ、尚も「いいんですよ!気にしないで皆で観ましょう!」と何度も言ってくださいました。

いや、なんか、すごい感動したのよね……。
だってここにいるのって私と美術館のスタッフの方2~3人と、高木先生とカメラマンの人くらいなわけですよ。なので嫌な言い方すると「世間に向かって良い人アピール」する必要ないわけで。そもそも撮影込みのお仕事なんだし、他に人がいない方が良いに決まってる。でも海老蔵さんはお互い一鑑賞者として、鑑賞する権利を尊重するために何度も声をかけてくれたっていうところにね……めっちゃ感動して、心底ありがとう!ってなったよね。あと高木先生も申し訳なさそうにしてくださって、なんかホント、みんな優しいありがとう……ってなりましたね。
※ちなみに日展鑑賞のこと、海老蔵さんのブログに載っていました。

 

■鑑賞を終えて

そんな良い話もあってこの日はタイムアウトになってしまったのですが、いや、ホント日展は濃い。公募展ビギナーはいきなり最大級から攻めてみるのも良いかもしれません。
あと、公募展観ていると芸術院賞とか文化功労者とか文化勲章とかとリンクするので、発表を聞くのが面白くなります。
いつも見ている日本美術とはちょっと違うように思うかもしれないけれど、現在の日本美術のひとつの面であることには違いありません。
ビギナーにも優しい作品解説会や、チケットが安くなるトワイライトチケット制度を設けるなど、かなり間口が広くなっているので、これを機に気軽に(でも本気で観るならそれなりに時間を取って)足を向けてみてはいかがでしょうか。

 

改組 新 第4回日本美術展覧会
●会期:~2017年12月10日(日) 
●休館日:火曜日   
●会場:国立新美術館
●開館時間:10時~18時(入館は17時30分まで)

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