奇想建築探訪(築地本願寺)とKING OF PRISM鑑賞 

少し前、twitterにて「今月号(7月号)のサライが面白い」というツイートがちらほらタイムラインにのぼっており、気になってサイトを見たところ納得。奇想建築大特集というではないか。

表紙には載っていませんが、石川九楊特集あり。

加えて7月5日から始まる書道家・石川九楊展の特集(この人の字はちょっと他にない凄さです)、全国のビール党に捧ぐ「家飲みビールを究める」特集、さらには「自転車生活」指南とな……。

わたくし、アルコールに弱いため(&ゆるやかな禁酒中のため)ビールを心ゆくまま楽しむことはできないのですが、それを差し引いても奇想建築に石川九楊に自転車でしょ?なんという俺得号。

そんなわけで本誌をゲットし、読んでみた。すいません、知らなかったけど『サライ』って面白いんですね……。
というのも、私はてっきりリタイアした世代向けの穏やかな雑誌と思っていたのですが、もっと下の世代が読んでも十分に面白かった。

まず写真が綺麗で見やすい。巻頭に藤原新也さんが登場する時点でクオリティが高いのですが、他のページも安定。撮影条件厳しかったろうなというシーンも美しく仕上げている。

次いでコラムが面白かった。ターゲットにしている読者にとっては「なつかしい」ものなのだろうけれど、自分(30代)にとっては「新しい」知識。中でも「百貨店はじめて物語」という連載、三越日本橋本店の店長・浅賀誠氏が語り手なのですが(毎号変わる?)、さっと読むことができる上に、次回三越に行ったらチェックしてみようと思わせる工夫に満ちた文章。ある意味優雅なステマである。

そしてこれは声を大にして言いたいのだけれど、自分の世代をターゲットにした雑誌が提供する“アクティブさ”に疲れたときにちょうど良いのだ……。あの、一見「肩の力を抜いた上質な日々」は実はかなり頑張る必要があったりして、私みたいな人はそのギャップに疲れたりするんだけど、サライはあんまりそういうところを攻めてこないので、普通に読んでいて気分が楽なんですわ……。良い意味で浅く広くの趣味に走っているというか。
ちなみに来月号は山下裕二先生登場の「くらべる日本美術」特集。若冲と田中一村、永徳と等伯、さらにはモンドリアンと雪舟を比べ、時代を超えて響き合うところから、日本美術の醍醐味を探るそう。こちらもマストになりそうです。

 

さあ、そんなわけで巻頭特集「奇想建築」を歩く。解説は建築家・藤森照信氏。
ラインナップは擬洋風建築を代表して旧開智学校(長野県)、山形市郷土館(山形)、岩科学校(静岡)を紹介。続いて伊藤忠太の建築解説へ。本願寺祇園閣、そして地元!中山法華経寺聖教殿などが並びます。
”「奇想建築」は文明の衝突時に誕生する”という、なんとも気になるコピー。本誌の試し読みは小学館のHPから閲覧可能。→ https://serai.jp/news/201347

伊藤忠太ね。初めて本願寺や祇園閣観た時は、感動よりも「ぎょ」っとしたのをよく覚えています。いきなり視界に入る奇妙な巨大建築。はっきり言って怖い。でも無視できないという不思議な魅力で惹きつけてくるのです。
本願寺はちょいちょい行っていたけれど、本文を読むうちに改めて見てみたくなり、じゃあ実際に行ってみるかと雑誌を頼りに出かけてみました。

 

逆光になってしまっているけど、親鸞像

本願寺の宗祖は親鸞聖人宗派は浄土真宗本願寺派で、本尊は阿弥陀如来。南無阿弥陀仏を唱え、日々行いを振り返りながら生きましょうという教え。
ちなみに「築地」という地名は、もともと浅草にあった御堂が1657年の明暦の大火で燃えてしまい、別院のあったこの地に本堂を立てましょうということで、海を埋め立てて土いたことから「築地」と呼ばれることになったそうな。
そういえば今年2月に、五木寛之著『親鸞』の挿画を担当された山口晃画伯のトークショーがここ本願寺で行われたのでした。面白かった!

もともと木造だった本願寺。関東大震災で焼失し、昭和9年に鉄筋コンクリート造で再建されたのが今の姿。それまでの寺院は中国様式が多かったけれど、「仏教のルーツはインドにあり」とした伊藤忠太の考えにより、この姿になったとか。

狛犬じゃないんですね。羽の生えた獅子。ここはヴェネツィアの守護神を思わせる。

 

本堂への階段を上ると、奇妙な外観からは一転して可愛いステンドグラスが。枠の形はなんとイスラム式なんだって。

 

中はよくあるお寺のつくりだなと思っていたのですが、やはりここは伝統的な浄土真宗様式にしてあるそうな。とはいえ、両端の柱や窓はインドっぽかったです。

なんとパイプオルガンも。音楽を通じた仏教伝道と仏教音楽の普及を願い、1970年、財団法人仏教伝道協会より寄贈されたもの。(旧西ドイツ・ワルカー社製)
写真では切れてしまっていますが、左右に計6つの山があり、これはそれぞれ「南/無/阿/弥/陀/仏」を表しているそうです。オルガンの音色はランチタイムコンサートで聴くことができます。
ランチタイムコンサートスケジュール

 

さて、せっかくなので中を探検してみると、こちらも外観からは想像できない洋風の階段が。

 

事務室の外にある郵便受けもなんだか可愛い。

 

また、随所に配置されたレリーフもたくさん種類があって美しい。個人的にこういう雰囲気は大好きなので、いろんなカットを撮ってしまいました。

 

妖怪が大好きだった伊藤忠太は、本堂のあちこちに“動物”と呼ぶにはやや不思議な体型をした生き物を配置しています。

 

一体どこに、どれくらいいるんだ?という人のために、親切にも案内板が。

 

親切と言えば、本願寺に参拝に行くと信徒さんなのか案内係の方が「ようこそいらっしゃいました」と声をかけてくれるのですが、皆穏やかで押しつけがましくなくて、とても親切。
親鸞はなかなかに激動の人生を送った人でしたが、その先で見出した教えがこういった人々の穏やかさに反映されているのであれば、それは素晴らしいことなのではないでしょうか。

 

サライでは伊藤忠太建築を本願寺のほかに、東京では東京都慰霊堂東京都復興記念館一橋大学兼松講堂、千葉に足を延ばして中山法華経寺を紹介していました。法華経寺については近くに住んでいるのに知らないことが多かった。このあたりであればフラっと行けるし(兼松講堂はちょっと遠いけど)、他県の建築も魅力的だったので、いつか回ってみたいですね。
今の季節、午前中に見学に出かけて築地でお昼を食べ、夕方に帰ってベランダなんかで同特集にある家飲みの極意を実践するのこそ、この世の極楽なのではないでしょうか。

 

さて、せっかく築地まで出てきたので、この日は六本木へ移動してキンプリことKING OF PRISM の新作映画、「KING OF PRISM-PRIDE the HERO」を観ることに。

私は、左側で赤いジャケットを振り回している「速水ヒロ」の声をあてている前野智昭さんのファンなので、鑑賞前はてっきりヒロ推しになると思っていたのですが……。まさか他のキャラに落ちるとはこの時は思ってもみませんでした。

キンプリとはなんぞや、というと、詳しいことは私もよくわかっていません。なぜ良くわからないものを観に、サービスデー割引が適応されない特別料金1,600円払って劇場まで行くのかというと、これが滅法評判が良いからである。

「とにかく面白い」「何度も足を運んでしまう」「幸せな気持ちになる」などなど。

上映館が少ないにもかかわらず、上映開始後2週間で2億円の興行収入を突破。ぴあの満足度ランキングでも1位を獲得。予てからのファンによる応援もあるでしょうが、オタクは厳しい視線も持っているので愛着だけでは高い評価はくれませんし、ましてやリピートなんてもってのほか。ですから、この数字はかなり期待できる作品であることを裏付けています。

 

 

周囲での評価も高く、それなら一度は経験してみるかと観に行くことにしたのですが、完全無知で行くのもまずいかなと事前に公式サイトをチェックしたところ、専門用語が林立しており、結局何のことやら全く分かりませんでした。
KING OF PRISM-PRIDE the HERO公式サイト

なので、何の準備もせずに行く。

これは後になって調べて分かったのですが、今は珍しくもない「応援上映」というシステム、これを公式が開催し、マスコミによって大々的に取り上げられるようになったのは同シリーズの「KING OF PRISM by Pretty Rhythm」からだそうです(絶叫上映などファンや映画館によって自主的に開催されるイベントはもう少し前から行われていました)。

 

肝心の感想ですが、一言で言うと「めちゃくちゃ面白かった」です。

事前に知識を入れたり、前作を予習として鑑賞しなくても十分楽しめました。むしろ生活していて普通に入ってくる時事ネタや、知名度の高いアニメネタを知っていれば楽しめる。今やほぼ国民的アニメとなったエヴァンゲリオンを見たことがある人は、既視感を覚えるシーンがいくつかあるでしょう。「おそ松さん」の第一話が好きな人には受け入れられる展開だと思います。

あと、なんと言っても音楽!歌って踊るアイドル映画なので随所に歌が入るのですが(ミュージカルではない)、90年代にバリバリTRFを聴いていた人は確実に興奮すると思いますよ。
もうね、男性声優の歌うTRFはマジで素晴らしい(もちろん本家が素晴らしいのは言うまでもありません)特に大和アレクサンダー(cv.武内駿輔)という野太い声の持ち主が歌う「EZ DO DANCE」はたまりませんでした。帰って即音源を手に入れてからというもの、日に何度も聴いてしまうという中毒性……。
そうそう、登場人物の一人・太刀花ユキノジョウの家に、円山応挙の《藤花図》のようなものがありました。円盤が出たらもう一度確認しようと思います。

円山応挙《藤花図》(右隻)

 

ざっと理解した部分でいうと、キンプリとは「プリズムスタァというアイドルの頂点みたいなのを目指し、切磋琢磨する若者たちの群像劇」。頂点に上り詰めるには、プリズムショーという歌とダンススケートを取り入れたステージで他者と対決し、勝利しなければなりません。そのため、対抗事務所(?)のライバルと戦ったり、仲間内の人間関係でも悩んだりします。
―――と、こうやって文字にするとよくある展開に思えますが、実際は突然超次元的な状況に陥ったり、甚大な被害を生み出すほどの凄まじい肉弾戦がいきなり繰り広げられたりして、想像の遥か上を行くシーンが矢継ぎ早に展開されます。

ホント、唐突に脈絡のない表現がね、あたかも自然な流れであるかのように出てくるんですよ。ただ、「そんならそれの何が面白かったのか」と聞かれたら、残念ながら明確な説明ができる自信はありません。
「そんなわけの分からんものが本当に面白いのか」と思われるかもしれませんが、私自身も何でだか分からないけれど面白かったんだよなあ……。

そう、この「何故だか分からないけれど面白い」という感覚が、キンプリの魅力のひとつにして、最大の鍵なのではないかと思うのです。
もちろん本当に「わけが分からないだけ」だったら面白いはずはありません。
本来ならば段階を追って語られるはずのネタが、突拍子もなく断片的な情報の洪水となって鑑賞者を直撃する。鑑賞者は情報について考える時間を与えられないのだけれど、どうしてかそれを反射的に娯楽として理解できてしまう。

……おそらくキンプリの製作陣は、鑑賞者の娯楽を受け取る土壌が出来上がっていることを見越した上で、絶妙な脈絡のなさを演出しているのではないでしょうか?
本当に突拍子もない内容の羅列であれば、笑えるはずなどないのです。けれど我々は70分間スクリーンに釘付けになった。釘付けになる、即ちそれは、次に何が来ても受け止める自信があるということ。受け止められないと判断すれば、観るのを止めますから。つまり我々は、一見”突拍子もない意味不明な表現”に見えるものに対し、実は記憶の奥底に「そのネタを笑うことができる知識」を蓄えていたということになります。
キンプリの凄いところは、その”知識”が、ある一定の人たち(毎期5本以上のアニメを必ずチェックする生活を数年送ってきたオタク)しか持つものではなく、もっと多くの人々が共有できる範囲を的確に把握しているということなのです……。

この、「本来ならば順を追って、ある程度時間をかけて理解していくはずのものが、反射的に娯楽として理解できてしまう」というスポーツのような感覚が、独特の爽快感・多幸感を伴う「面白い」という感覚に繋がるのかもしれません。
しかし、この方法で人に”楽しい”という感情を与えることができると気付くって、すごくない?万人受けは難しいとしても、少なくともキンプリのキの字も知らなかった私ですら現に面白いと思ったし、2週間で興行収入2億円という数字は紛れもない事実なのですから。

7月22日から兵庫県立美術館にて「怖い絵」展が始まるわけですが(東京は10/7~)、展覧会のコンセプトは背景をじっくりと理解したうえで恐怖を味わうというもの。一見何が怖いのかわからない絵だけれど、その絵の意味を知るとじわじわ恐ろしくなるという、逆キンプリ方式のような展覧会です。
一見よく分からないものから、極上の面白さを得るには様々な回路がある。
そう考えると先に述べた本願寺等の奇想建築も然りで、奇妙だ・怖い・でも気になるという、「怖いもの見たさ」から新鮮な知見を得て楽しさへ転換させるというパターンもあるし、旅の風景写真を見て「すごいな、行ってみたいな」とシンプルな情報処理を行って楽しみを得るパターンもある。
だから、「こうすれば人は感動する」、「こうすれば盛り上がる」というよくある娯楽の法則的な話しは、実際、そんなに意味がないんじゃないかと思うのです。というか、エンタテインメントというものはそんなに単純なことではないのではないでしょうか。

 

お仕着せのエンタテインメントに惑わされて、感覚を自らパターン化するのはつまらない。もっと様々な感度を経験するべきなのだ。
というわけで、キンプリの前作「KING OF PRISM by Pretty Rhythm」も観ようと固く心に誓いました。

 

 

※上で述べたキンプリが鑑賞者に与えるエンタメへの考察は完全に個人的な考えにすぎません。なので、もしかしたら本当にノリだけで制作されているのかもしれません。
まあ、だとしてもそれはそれで凄い感覚を持った人たちが作っているんだなという結論は変わりません。

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