ゴールドマン コレクション「これぞ暁斎!」展行ってきた


@Bunkamura ザ・ミュージアム

※注※文中に無修正春画が出てきます。

 

2015年の夏、三菱一号館美術館にて開催された「画鬼暁斎」は記憶に新しく、あの展覧会で暁斎のファンになった方も多いのではないでしょうか?

私もそのうちの一人です。今までいろいろな展覧会で暁斎を見かけることはあったけれど、まとめて観る機会というのはなかなか無く、まとめて観たら「なんだこの人すごいな!?」と一気に大好きになったという……。

何がすごいって、あらゆる画風を高い画力で使いこなすセンスがすごい。
そこが暁斎の一番の魅力なのでしょうけれど、「めちゃくちゃ上手いうえにセンスも良くて、さらには小学生みたいなギャグもいける」という、ちょっと路線は違うけど全盛期の鳥山明みたいな。今の東京、ファイナルファンタジーがミュシャなら、暁斎はドラクエといった感じでしょうか?とにかく理屈抜きにわくわくしてしまうのです。

 

さて、そんな暁斎の展覧会がBunkamuraで開催中というではないか。

今回は世界屈指の暁斎コレクター、イスラエル・ゴールドマン氏のコレクション展(氏のコレクションは2002年にも太田記念美術館の暁斎展で展示されています)。ゴールドマン氏自身も「何で暁斎の作品をコレクションしているの?」の問いに「面白いから!」と答えていますが、やっぱそこですよね。序章「出会い ゴールドマンコレクションの始まり」で紹介されている絵は、どれも高い画力で描かれた面白く可愛らしいものばかり。

 

そんなわけで「面白い」が集結したゴールドマンコレクション、一体どんなものなのか観てまいりました。ありがたいことにブロガー内覧会が開催され、担当学芸員の黒田和士さんをはじめ、美術館研究家のチバヒデトシさん、ブログ青い日記帳管理人のtakさんのお話を伺いながら鑑賞することができましたので、それを含めて書いていこうと思います。(※写真は特別な許可を得て撮影しています)

 

 

さて、暁斎。

1832年に生まれ、幕末から明治にかけて活躍した絵師でありますが、子供のころに河原に落ちていた生首を写生したとか、鴉の絵に百円(当時は破格の値段)をつけ、高いと文句を言われたら「百円というのはこの鴉の値段ではなく今までの研鑽修行への対価だから、嫌なら買わなくていいよ」と切り返したとか、その生涯はドラマティックなエピソードに溢れています。

 

第一章「万国飛」は、その“百円鴉”の話にも出てきた「鴉」の絵が主役。
1881年の第二回内国勧業博覧会に出品した《枯木寒鴉図》で妙技二等賞牌を受賞すると、たちまち暁斎の鴉は有名になり、日本のみならず海外からも注文が殺到しました。そこでバリバリ鴉の絵を描くわけですが、「世界(万国)に鴉の絵が飛び立っていく」という意味を込めて、暁斎は「万国飛」という印を作品に押しています。(今回会場の写真の一点撮りが禁止されていたため、どんな印か気になる方は以前書いた三菱一号館の暁斎展記事をどうぞ→

《月下 梅に鴉》あえて月を描いていないところがいい!

この部屋ぐるっとすべて鴉なんだけど、一羽だけブルーグレーの紙に書かれていて、はて何でだろう?と思ったら「闇夜の鴉」なんですって。(写真)

ゴールドマン氏は鴉の絵だけでも約30点所蔵しています。暁斎の弟子でもあったジョサイア・コンドルからも鴉の絵を100枚注文されたというから、おそらくこの世には数百枚にのぼる暁斎の鴉が存在するんじゃないだろうか……と黒田学芸員。素早く描ける鴉は席画でも頻繁に描かれたモチーフだったのかもしれません。

 

 

そんな鴉に続いて動物がたくさん登場する第二章「躍動するいのち」。動物たちが生き生きと描かれたものが展示してある章ですが、ここにとてつもない逸品が……

向かって左手をご覧ください

これ。暁斎、タイバニ見てたよね……?

“タイバニ”っていうのは伝説のアニメ「Tiger & Bunny」のことなんですが、何でそんなことを言うかというと、この構図ってタイバニを見ている人じゃないと描けない構図なんですよ。

兎も虎も日本画の世界において頻出モチーフですが、同じ画面に描く人ってほぼいないのではないでしょうか。干支くらいしか繋がりがないし、虎が兎の尻に敷かれている故事なんて無いですよね?そうなると、どう考えてもタイバニを見ていたとしか考えられないんですよ。これはタイバニクラスタ全員に聞いても同じ答えが返ってくると断言できますが、茨の冠をつけて十字架に架けられていたらキリストだっていうのと同じくらい我々の中では鉄板のアトリビュートなんです。

「そんなの偶然でしょう?」

そう思う方もいらっしゃるでしょう。けれどこの絵のタイトルを聞けば、私の言わんとするところを理解していただけると思います。

この絵のタイトル、《虎を送り出す兎》って言うんです。

《虎を送り出す兎》

もうね、ここまできたら「ああ、それはタイバニに違いないね」と誰もが納得すると思います。タイバニと言えば「いきますよ、おじさん」。兎が虎を鼓舞するそのセリフが印象的な場面で度々使われることで有名です。おそらく暁斎はそれも意識していたと考えられます。

「これだからおじさんは……」(c.v森田一成)

この絵からは、そんな兎の呆れた声が今にも聞こえてくるような気がしませんか?

 

私はこれを観た後、あまりの衝撃に狩野派の技術がふんだんに生かされ、強弱をつけた毛描きが目を引く《枇杷猿、瀧白猿》の記憶がスポーンと抜けてしまいました。

左《瀧白猿》 右《枇杷猿》
左《雨中さぎ》、右上《松に猿》、右下《眠る猫》
左《岩に猫》、右《月に手を伸ばす足長手長、手長猿と手長海老》タイトルだけでもう笑える。

いやあ……暁斎、タイバニ好きだったんだね。(本当のところは、干支を意味して描かれた絵です♡)
もちろんタイバニだけでなく、他にもめちゃくちゃかっこいい鷺の絵とか、妖怪・手長足長と手長猿と海老という、すごいメンバーが結託して月を捕ろうとする絵とかも素晴らしかったので、「タイバニまだ見てないんだよなあ」という方にもこの章は十分楽しめます!

 

続く第三章は「幕末明治」を描いたもの。

左《船上の西洋人》、右《各国人物図》左上にエスキモーの人々が

この章はなかなかにカオスで、故にその時代を良く表しています。《各国人物図》などは最たるもので、仮名垣魯文の『世界都路』等の挿絵を描いた暁斎は、資料をもとにアフリカ人やエスキモーを驚くほど正確に描写しており、文化が一気に入ってきた時代であったことを強く感じさせました。

けれど、他にも面白いのがあってですね……

左《大仏と助六》これも相当すごいアングル 。右《五聖奏楽図》良く見るとキリストの手に扇が……
《町の蛙たち》

おなじみ《放屁合戦》だとか、和風キリスト磔刑図だとか、擬人化された蛙(電柱が山口晃ファンにはたまらない)だとか、あと日記。

《暁斎絵日記》(部分)

これも以前の暁斎展にいろいろ書きましたが、こんな日記が書けたら最高よな。これ、亡くなる直前まで描いていたんだって。

 

そして4章「戯れる」に進むわけですが、このあたりまで鑑賞すると「狩野派の技術を持ちながら、浮世絵特有のウィットに富んだ洒落を自由に操る絵師」というイメージがだんだんと定着してきます。そしてそれは当時の人たちも同じだったはず。この章でたくさん紹介されている“鐘馗”の絵を観ると、それを実感できると思います。

これは真面目な鐘馗
こっちは面白い鐘馗。特に真ん中の絵は鐘馗が鬼を蹴り上げている。

鐘馗は鬼を踏みつけるポーズでおなじみの中国の神様で、端午の節句に鍾馗の絵や人形が奉納されることも。暁斎、“鐘馗”というモチーフが好きだっていうのもあるのだろうけれど、それにしてもいろんな鐘馗を描いている。鬼を踏みつけるどころか蹴り上げたり、中には河童を捕まえるための囮として使ったり、これじゃどっちが鬼だか分からない。悪役がユーモラスである、一種タツノコプロ的な構図は、さぞ人々から愛されたことでしょう。

「こんな面白い鍾馗なら我が家にも一枚欲しい」そう思う人が続出だったのではないでしょうか。毎年5月になると暁斎のもとには「鐘馗を描いてほしい」という依頼がたくさん来ていたようです。

 

 

さてこの章を出たところにこのような鳥かごが。

もちろん進むよね。

はい。三菱一号館の時もやんわり上品なカーテンが引かれていましたが、今回も上品なレンタルビデオ店よろしくの春画コーナーです。

暁斎の春画は「ボカシ」とか「修正」とか「際どい所が見えないような配慮」とか一切ナシの、思いっきり描いていくスタイルなんですが、本人には申し訳ないけど微塵もエロくないんですよ。それもそのはず、この章は「笑い」と名付けられ、どんなシチュでも「アホかよ」と思わず笑ってしまうものばかり。AV企画ものみたいなのとか、あとは二次創作でありそうな狐がイケメンに変身していた獣姦もの(ラストはきっと切ない系)とか、全く美少年じゃないBL乱交とか、ギミックポストカード系とか、まあ、こういう感じなんですけど。

《笑絵三幅対》 そもそも春画は「笑い絵」と呼ばれ、湿度の高いエロティシズムよりも笑って楽しむジャンルとして嗜まれたようです。(もちろん春画展にあったようなエロティシズム系も好まれていたのだろうけれど)
《稚児男色絵巻》顔面偏差値的に残念なBLですが、いろんなシーンあり。
《大和らい》ギミック付きの豆錦絵。当時の人は紙を動かして笑ったんだろうな。私たちも鑑賞しながら笑いましたけど。

でもけ、下ネタって本当に難しくて、それをどう語るかで、どんなにその人が上品に話しても本来の素質が露見してしまう究極の話題だと思うんです。そこでこのオープンスケベなセンスはずるいよね……。これは愛されただろうなと思います。

 

 

で、お待ちかねの第5章は、百花繚乱ならぬ「百鬼繚乱」

まずは避けて通れない《百鬼夜行図屏風》。百鬼夜行といえば図巻が定番ですが、こちらは屏風。もうね、かわいい。かわいいとしか言えない。こちらの妖怪たちとは入口付近のフォトスポットで一緒に写真を撮ることができます。

《百鬼夜行屏風》
ほんっとにひとつひとつの表情が可愛いし、輪郭線の付け方がすごくかっこいい。絵巻ではないけれど、左隻と右隻でストーリーが繋がっています。

 

 

続いてポスターにもなっている地獄太夫2点。

左右とも《地獄太夫と一休》

これらは『一休咄(いっきゅうばなし)』という一休さんの逸話をまとめた大ベストセラーから着想を得て描かれたものであり、上記2点どちらも《地獄太夫と一休》というタイトルですが、右手は「芸妓と遊んでいる一休に呆れて一旦座敷を抜けた地獄太夫が再び戻ってみると、芸妓だと思っていたのは全て骸骨だった」という話、左手は「一休の説法を聞き、悟りを開く地獄太夫」を描いたもの。暁斎は他にも地獄太夫をたくさん描いていますが、絵のテーマによってその扱いは様々です。

ところで左手の絵ですが、遊女が聖職者の話を聞いて改心するというのは、キリストとマグダラのマリアのエピソードにも通じるような気がします。暁斎はキリストの絵もいくつか描いているし、フランス国立ギメ東洋美術館所蔵の《釈迦如来図》も釈迦と言いつつキリストのようだし、なにかキリスト教との繋がりがあったのかなと気になりました。

2つの絵を近づいて見てみると、打掛や帯の柄がとても凝っており、そこだけでも物語が展開されていて面白いですよ。さらに隣の小さな絵に目を遣ると、もう商品化待ったなしというくらいかっこいい《三味線を弾く洋装の骸骨と踊る妖怪》が(実際枡やチケットホルダーになってミュージアムショップで売られています)。

《三味線を弾く洋装の骸骨と踊る妖怪》

 

暁斎は骸骨の絵をたくさん描いていますが、それは彼の生死観に基づいているそうです。この時代は西洋人との交流が始まり、当時の人々は背が高かったり髪や瞳の色が違う彼らを「同じ人間なのだろうか……?」と不思議に思っていたらしい。けれど暁斎は「西洋人も東洋人も、生きているものは死ねば骸骨になるのだ。人はみな同じなのだ」ということを伝えたかった。故にシルクハットと三味線という、東西のアイコンを織り交ぜた骸骨を描いたのでは?という解説を聞き、一見キャッチ―に見える絵には見た目の面白さだけでなく、時代を象徴したメッセージが込められていたのだなと知りました。

 

 

最後の部屋のテーマは「祈り」です。

ここまでいろんな暁斎を観てきたけれど、どちらかというとユーモラスだったり、高い画力を用いながらわざと何処かで外して見せているという印象が強かった。なので〆は暁斎の本気を観て、「真面目なのもふざけてるのも、どっちもいける人」という認識を持って帰りましょうってことなのかわかりませんが(笑)、仏画ということも相まって、ものすごく真面目な絵が多いです。

左より《達磨》、《半身達磨》、《半身達磨》

で、真面目なんだけど十六羅漢などは温かさがちゃんとあって、言ったらアレですけど、春画の笑いと似た“陽”の優しさに満ちているのです。そう、暁斎って、インパクトは強烈なんだけど、決して尖ってるわけじゃないのよね。優しくて明るくて、そしてロックな感じがするんですよ。

なので、こういう絵しか遺さなかったら暁斎の評価は全く違ったものになっていたでしょうね。

 

 

月並みながらやっぱり暁斎は良いなあ、というのが全体を通しての感想です。絵が描ける人はそれだけで楽しいだろうなと思うことは多いけれど、暁斎を観た後は特にそう思います。けれどそれは才能だけでなく、たゆまぬ努力があってこそ。彼の人柄を調べていくと本当に絵が好きで、且つものすごく勤勉だったことから、百円鴉のエピソードにもある「今までの研鑽修行」は並みならぬものであり、それはきっと百円では足りない程だったのだろうと思わずにはいられません。

 

ゴールドマン氏が惚れこんで蒐集する暁斎。これからも彼の作品を観る機会に恵まれますように。
そして他にもタイバニネタを描いてくれていますように!

ショップに売られている飴。なぜ榮太樓か。それは件の「百円鴉」をポーンと買ったのが初代・細田栄太郎だったのです!

 

 

「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」
会期:~4/16(日)
開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
展覧会公式HPはこちら→「これぞ暁斎!」

 

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