「超・日本刀入門」展行ってきた

@静嘉堂文庫美術館
日本刀入門

 武士の魂“日本刀”は、1000年におよぶ歴史のなかで、武器として武人を鼓舞し、美術品としても鑑賞されてきました。近年ブームに沸きながら、しかし道具としても美術品としても身近ではない日本刀。「全部同じに見える」「どこを見ればいいのか分からない」「専門用語が難しすぎる」といったさまざまな疑問やお悩みを徹底的に解決します!(「超・日本刀入門」展 公式ホームページより)

 

「全部同じに見える」、「どこを見ればいいのか分からない」、「専門用語が難しすぎる」
……これね。ホント、そうなんですよね。

私、【刀剣乱舞(とうけんらんぶ)】という擬人化された日本刀とともに歴史を守るというゲームをやっており、それには現存する刀剣がたくさん出てくるため、今までスルー気味だった博物館の刀剣コーナーもよく見るようになったのですが、まさに上に挙げられた3点がハードルになっているんですよ。というか、とうらぶプレイヤーで同じこと思ってる人って多いと思う。
かといって難しい本を読むのは辛い。「入門書」っぽいものなのに難しい。難しい専門用語を説明する言葉が難しいんです。もちろん小難しいことは考えずに美しさを楽しむだけでも十分だとは思うけど、“あの子とあの子が兄弟だと言われる理由”が刀を見ただけで分かったら面白いと思いませんか?そして展示室で打ち震えたいと思いませんか?

私は展示室で震えたい派なので、手っ取り早くある程度の知識を得ることはできないものだろうか……と常々ズボラなことを考えていたのですが、そんなところに神降臨。「徹底的に解決します!」の文字が頼もしい。早速ブロガー内覧会に申し込み、参加してまいりました。

※写真は美術館の許可を得て撮影しています。

トークショーの様子。「国宝、重文なんて気にしなくて大丈夫!」という館長の豪快な発言も…… 左より:青い日記帳管理人:takさん、河野館長、山田学芸員
トークショーの様子。「国宝、重文なんて気にしなくて大丈夫!」という館長の豪快な発言も(笑
左より:青い日記帳管理人:takさん、河野館長、山田学芸員

静嘉堂文庫美術館は世田谷の(本当に)閑静な住宅街に位置する美術館です。
三菱財閥の創業者・岩崎弥太郎の子息であり第二代社長の岩﨑彌之助と、第四代社長の岩﨑小彌太によって設立されました。国宝・曜変天目(稲葉天目)の所蔵館としても有名ですね。特に彌之助は幼いころから刀剣が大好きで、刀剣図譜を作成していたほどだったとか。
ちょっと遠いけどロケーションが最高で、晴れた日には富士山が見えるわ、今の時期は白梅が綺麗だわで「来てよかった」と思うこと請け合いの施設なんですけど、持ってるものがまた素晴らしい。

今回は所蔵作品120振の中から選りすぐりの名刀30振を公開。加えて武者の装いを考察する上でキーとなる屏風や絵巻、印籠等も紹介されています。

見どころとしては
① 所蔵の国宝・重文刀剣9件すべてが揃い踏み(開館以来初!)
② 織田信長、滝川一益、直江兼続など、武将の名刀を数奇なエピソード付きで紹介
③ 重要文化財《平治物語絵巻 信西巻》を特別公開(世界に3つしかないうちの1つ!)

これだけでも何かすごいぞってのは伝わるんですが、個人的に一番の見どころは「めちゃくちゃ分かりやすい説明」だと思いました。つーか、これに尽きる。
展示室入って10秒で「一目で刀と太刀の見分る方法」がわかるってすごくない?刀と太刀の違いってわかる?そりゃ大太刀とか打刀とかいうけど、刀=太刀のことじゃないの?って思ってませんでした?私は思ってました。ちゃんと違いがあるんです!
まずはそこから簡単・簡潔に教えてくれる、まさに超入門。ありがたや。

 

上:重要文化財《源清麿刀》/附 小倉巻柄半太刀拵 下:《長船長光太刀》/附 黄金造糸巻太刀拵 長さや反りの深さのほかに、一発で見分ける方法として、腰につりさげて携行したときに「刃が下に向くものが太刀・上に向くものが刀」になる……!!会場にはさらに分かりやすく特徴をまとめたパネルも。 ちなみに長船長光は長船光忠の息子。
上:重要文化財《源清麿刀》/附 小倉巻柄半太刀拵
下:《長船長光太刀》/附 黄金造糸巻太刀拵
長さや反りの深さのほかに、一発で見分ける方法として、腰につりさげて携行したときに「刃が下に向くものが太刀・上に向くものが刀」になる……!
会場にはさらに分かりやすく特徴をまとめたパネルも。
ちなみに長船長光は長船光忠の息子。

難しい本を買ったはいいけど言葉が覚えられずリタイアした人はぜひ行ってみてください。用語を忘れても毎回図説に解説を書いてくれてあるから安心して鑑賞できます。
「ゲームの知識しかない」って人、そのゲームの知識が展示のところどころで活きてくるんですよ。だからキャプションを読むテンションがめちゃ上がります。
そして「ガチの刀剣オタだから“入門”って言われるとちょっとね……」という人も案ずるなかれ。ちゃんとオタクの心をくすぐる構成にしてあります。もちろん武将オタ、歴史オタも満足されることでしょう。

 

さて、展示は松本楓湖の代表作《蒙古襲来・碧蹄館図屏風》から始まります。2/19までは蒙古襲来、それ以降は碧蹄館図への展示替え。蒙古襲来(文永の役)も碧蹄館の戦い(文禄の役)も、どちらも対中国戦。これらは日清戦争に際し戦意高揚のために描かれたものだと言われています。
しかしさすがは歴史画に長けた楓湖、写実的且つ躍動的な筆致はいわずもがな、構図も色彩もとにかく美しいです。実はかなり忠実な時代考証がなされているらしく、宮内庁に納められた当時の武具や旗印の資料と比較しても差異がないのだとか。

《蒙古襲来図》 松本楓湖
《蒙古襲来図》
松本楓湖

 

そしてこの絵の対岸の壁面に「刀剣鑑賞はじめの一歩」という超重要な資料パネルがあるのですが、まずはそれを読みましょう。ここに刀剣の鑑賞ポイントが書かれています。

主要なポイントは以下の3つ。
● 姿
● 刃文
● 鍛え肌(地鉄 “じがね”と読みます)

姿からは刀身の長さ、反りの強さのほかに、なんと産地もわかるのだそうな。
刃文からは刀工(作者や流派)の特徴が読み取れるそうです。どんな角度から見ると波紋が見やすいかも写真付で書いてあるので真似して観てみましょう。(ちなみにモデルは本展担当学芸員の山田さんです)
鍛え肌は刀工技法が現れる部分であるものの、刀剣鑑賞において最も観察が難しいみたい。刃文は見えても鍛え肌の模様を読み取るのは難易度が高そうです。というか、鍛え肌に模様があるなんて知らなかったよ……。
そもそも見やすい刃文ですらいろんな種類があって、自分に見えているのがこの刃文で合ってんのかな~……と自信がなかったんですが。

今回、現物に並べて“押形”の解説が付くんです!!

押形っていうのは刀剣の形状を原寸大で写し取って刃文を描き出した、所謂イラスト解説のこと。刃文の光沢を反転させることで(明るく光っているところを黒く描くネガポジ方式)、どんな模様がついているのか一目瞭然でわかるようになっています。

こんな風に展示されてる↓ 下にあるのが押形です。

《国宝 手搔包永太刀》 附 菊桐紋糸巻太刀拵 包永
《国宝 手搔包永太刀》
附 菊桐紋糸巻太刀拵
包永
これが押形
これが押形

1つの展示につき、通常のキャプション+押形、しかも押形に見どころメモまで付いてるわけです(押形の写真を見てもらえば分かると思うけど、「ここが二重刃になってるよ」とか「刃先に向かって強い沸がついてるよ」とか書いてある!)。しかも1つ1つに対して左上に基本の見どころ3点ポイント(姿・刃文・鍛え肌)の解説まである

ちなみに「図説・刀剣鑑賞の手引き」という4ページの資料が配布されるので、「えーと”五の目”ってどんな模様だったっけ?」と思ってもすぐチェックできます。この手引き、この先ずっと持っていたいくらい用語解説が優しいの……!これ何て読むんだ?と思う全てにふり仮名もふってあります!!

「図説・刀剣鑑賞の手引き」 ふりがなが嬉しい万能資料!
「図説・刀剣鑑賞の手引き」 ふりがなが嬉しい万能資料!

ここまで見るべきところが書いてあったらもう「どこを見ていいのか分からない」なんて言えなくない……?
国宝・重文の9振はこの方式で展示してあります。「9振も見りゃ、あとは自力で行けんだろ?」ってことなのかなと思うでしょ?でもね、そうじゃなかった。

上:《初代越中守高平刀》 下:《関兼定短刀》 関兼定短刀は二代和泉守兼定による短刀。 斬れ味に優れ、最上大業物として名高い!
上:《初代越中守高平刀》
下:《関兼定短刀》
関兼定短刀は二代和泉守兼定による短刀。
斬れ味に優れ、最上大業物として名高い!

解説次のコーナーでも見どころ、ちゃんとまだ図解で書いてくれてた……。

先ほどまでの基礎演習をもとに、新たに添えられた図説とともに鑑賞。全体の美しさや彫刻、そして姿・刃文・鍛え肌を見ていくと、なんとなく刀剣の何たるかが分かってきたような気がしてきます。

そして刀が人に渡っていくうちに形を変えていっているということも良くわかりました。

美術品として作られた刀は「うぶ(打たれた当時の姿)」のままでいられるけれど、ほとんどの刀はそもそも武器なので、使いやすいようにと持ち主が短くカスタマイズしたりしてる。短くするうちに銘がなくなっちゃって”無銘”になってたりするものもあるから、一体だれが作ったのか探るために「見どころ」とされるポイントをチェックして推察するという……もうそこまで行けたらめちゃ楽しい領域ですよね。なるほど、これはマニアが生まれるわけだわ。

 

そして忘れてはならないのが主と刀剣のエピソードコーナー。

ここでは名だたる武将たちが、どういう経緯でその刀剣を所持するに至ったか、そして誰に渡っていったかが紹介されています。

《古備前高綱太刀 号「滝川高綱」》 附 朱塗鞘打刀拵
《古備前高綱太刀 号「滝川高綱」》
附 朱塗鞘打刀拵

これは滝川一益が、主君織田信長より拝領したものです。信長は古備前が好きだったみたい。そして朱鞘も好みだったらしく、若いころは自分も朱塗の鞘を愛用していたそうですよ。拵の金具には「桐紋」が施されており、信長直々にオーダーしたものだということが伺えます。
shuzayaこの朱鞘、つるっとしててかっこいいというより可愛い♡
こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、60年代レトロのバイク用ヘルメットみたいな感じでとても良いです。持ってたら目立つよね、という一品。
対する直江兼続の愛刀《伝 長船兼光刀 号「後家兼光」》はとてもシック。

《伝 長船兼光刀 号「後家兼光」》 附 芦雁蒔絵鞘打刀拵
《伝 長船兼光刀 号「後家兼光」》
附 芦雁蒔絵鞘打刀拵

秀吉に気に入られていた兼続は、秀吉の形見分けの品としてこの刀を授かったのだそうです。で、なぜ「後家兼光」と言われているかというと(号はあだ名の意)、兼続の没後、奥さんのお船の方が主家(上杉)にこの刀を献上したことから、後家さんがあげた兼光だよ、ということで「後家兼光」と呼ばれているとのこと。

武将のプロフィールと一緒にそういうエピソードが添えられ、そしてまたここでも見どころメモを付けてくれるという……。
memo

なんかね、静嘉堂が塾の先生だったら、絶対大学合格しないと申し訳ないなって思うくらい本当に懇切丁寧なんですよ。でもホント、ここまで解説読みながら鑑賞してると、不思議とさっきまでわからなかったことだらけの刀剣が、何となく分かってくるんです。

で、「この調子なら他館の刀剣も分かるんじゃないか?」という自信がわいてくるんですね。なのでこの展示は、私みたいな人にとって贅沢な集中講座なのだと思います。
がっつり見ても疲れない&覚えていられる数に絞られているし、間々に鍔やら印籠やら小柄、笄の展示もあるので一休みもできます。

ゴージャスな鍔もありましたが、個人的にはこういう「透かし」の方が好み。 左から:文字透し鍔/鏃透し鍔/陰陽剣形透し鍔/十二支文字透し鍔
ゴージャスな鍔もありましたが、個人的にはこういう「透かし」の方が好み。
左から:文字透し鍔/鏃透し鍔/陰陽剣形透し鍔/十二支文字透し鍔
蒔絵が美しい印籠。蒔絵氏と言えばの柴田是真による印籠もありました。 左から:蒙古襲来蒔絵印籠/舟乗武者蒔絵印籠/橋弁慶蒔絵印籠(浮気在密)/武者蒔絵印籠(盈斎成章) 浮気在密ってすごい名前だな……
蒔絵が美しい印籠。蒔絵氏と言えばの柴田是真による印籠もありました。
左から:蒙古襲来蒔絵印籠/舟乗武者蒔絵印籠/橋弁慶蒔絵印籠(浮気在密)/武者蒔絵印籠(盈斎成章)
浮気在密ってすごい名前だな……

 

そして面白かったのが(鞘や鍔、柄)。刀は難しいけど、拵はデザインが強調されてるから分かりやすいなと思っていたのですが、すごいのがあってびっくりした。

《青貝笛巻鞘脇指拵》 (仙台国包脇指 付属)
《青貝笛巻鞘脇指拵》
(仙台国包脇指 付属)

写真じゃよく分かりませんが、すごいメタリックなの。螺鈿なんだけど、私の知ってる螺鈿ってもうちょっと控えめな色遣いのイメージだったから、ここまで攻めたギャラクシーなのは初めて見ました。平成になって新たに設えましたって言われても違和感なし。江戸時代、すごい。ほかに黒いバージョンもありました。

よし、なんか賢くなった気がしてきたぞ!と揚々として会場を出たところで、真打登場というかトリに相応しいパンチの効いた1振が。

《津田助広刀》 附 黒蝋色塗鞘打刀拵
《津田助広刀》
附 黒蝋色塗鞘打刀拵

この《津田助広刀》岩崎彌之助が若いころ差していた刀なのですが……
明治2年、同じ私塾のクラスメイトと口論になり、相手がいきなり斬りかかってきたのを、この刀で受け止めたとか。ちょうど抜刀するタイミングで受け止めたので、棟の部分に刀痕が生々しく残っています。この刀がなければ、彌之助は二代目になることはなかったでしょうし、静嘉堂も無かった……そう思うと、なんとも数奇な存在に見えてきます。キャプションにある「三菱を救った刀」の文字が重々しい!それにしても口論になって斬りかかってくるって怖すぎるな……。
ちなみに見どころメモ。midokoro……ですよね。

 

そんなわけで見ごたえに加え、親切すぎて泣けるくらい丁寧な解説が用意された「超・日本刀」展。会場にはもちろんここで紹介できなかった美しい刀が、まだまだたくさんあります。

キャプション読むだけでも面白いけど、今回「押形」を作成された吉川永一さん本展担当学芸員の山田正樹さんのトークショーが2月19日(日)の午前10時45分~と、午後1時30分から行われるそうです。吉川さんは、なんと宮内庁の御物となっている刀剣のお手入れも担当されている刀剣のスペシャリスト。山田さんは今回、木刀を用いながら説明をしてくださったサービス精神溢れる学芸員さんです。このお二人ならきっとキャプションには書かれていないアレコレを話してくださるはず。

そして3月4日(土)は、終日刀剣制作に携わる職人さんたちによる製作工程の見学ができるとのこと。刀匠、研師、鞘師がそれぞれ匠の技を披露してくださいます。

また、2月5日(日)午後1時30分からは、静嘉堂文庫美術館長(および文庫長)の河野元昭さんによる「絵巻物」の講演が。こちらは現在出品中の平治物語絵巻を中心とした講演になるそうですが、河野館長、めちゃくちゃ話が面白い上に笑い上戸でとても可愛い方なのです……♡
(※それぞれ詳細についてはこちらに記載あり)

そんな館長も仰っていましたが、今回国宝・重文が数々出品されているけれど、そういった定義に惑わされることなく、「これが好きだな」と思った感性を信じて鑑賞してほしいとのことでした。そうなのです、天下五剣の三日月宗近よりも、同田貫正国が好きだって良いのです!我が国の国宝や重文の選定をされていた館長が言うのだから説得力がある。

そしてその感性を裏切らないだけの美術品を、静嘉堂文庫美術館は所蔵しています。刀剣乱舞に出てくる堀川国広とは違う刀ですが、今回こちらで展示されている《堀川国広》は彫刻が本当に美しくて「眩いってこういうことか」とため息が出たほど。冷たい鋭さと美しさ、気高さを刀剣は内包しているということが良くわかる逸品でした。

《堀川国広刀》 国広、新刀鍛冶の祖と言われていたそうですが、仕えていた伊東氏が没落したあと、なんと山伏になって20年間流浪していたんだってー!!!知らなかった!!!山!伏!国!広!!!!
《堀川国広刀》
国広、新刀鍛冶の祖と言われていたそうですが、仕えていた伊東氏が没落したあと、なんと山伏になって20年間流浪していたんだってー!!!知らなかった!!!山!伏!国!広!!!!

 

展示を見終わった後、偏差値が爆上がりしたような気持ちになれたのは初めてかもしれません。この展覧会がなければ、たぶんずっと「もっと知りたいけど踏み切るにはハードルが……」と思いながらモヤっとした気持ちのまま鑑賞し続けていたことでしょう。その「モヤ」が本日見事に取れました。同じような「モヤ」を抱えている方、ぜひこのチャンスをお見逃しなく!

 

超・日本刀入門 (公式ホームページ)

会場:静嘉堂文庫美術館
会期:2017年1月21日(土)~3月20日(月・祝)
毎週月曜日(祝日の場合は開館し翌火曜日休館)
時間:午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)

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