シリアルキラー展行ってきた

@ヴァニラ画廊
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こちら(「魯山人・(シリアルキラー・)おもしろ落語、はしごした」)のエントリに少し書きましたが、”人間シリアルキラーデータベース”のような友人がおり、その人に誘われて行ってまいりました。嫌いな人は嫌いだろうし、興味のある人はめちゃくちゃ気合い入れて観るだろうなという系の展覧会。なんとなーく行った人は、会場を出たあとに前者・後者のどちらかに分かれるでしょうね。まあそういう特殊なやつです。

12時オープンに向けて入口に面した路上には行列が。デスメタルがお好きでしょ?といういかにもな刺青を入れまくった人たちから、落ち着いた感じ(が逆にそれっぽいっつったら失礼ですが)の方まで、様々な客層でした。ヴァニラ画廊行ったことある方はご存知かと思いますが、あのこじんまりした空間が朝の東西線ラッシュ並みに人であふれており、我々が行った2時間後にはなんと入場規制になるほどのお客さんが詰めかけたとか。すごいな、7月下旬からのギーガー展もそうなるんじゃないかしら。

肝心の展示ですが、有名なジョン・ウェイン・ゲイシー(映画『IT』の殺人ピエロのモデル)、ヘンリー・リー・ルーカス(レクタ―博士のモデル)から、宿泊客は無事に朝を迎えることができなかったという「殺人ホテル」を建設したハーマン・ウェブスター・マジェット、エドワード・ゴーリーの『おぞましい二人』に描かれているムーアズ事件の犯人イアン・ブレイディマイラ・ヒンドリー、キング牧師暗殺のジェームズ・アール・レイなどなど、実に数多くのシリアルキラー(と括ってしまうには些か微妙な人もいたけど)による200点以上のアートワークや手紙、ポートレートが展示されており、かなりお腹いっぱいになりました。
入場料は1900円でパンフレット付き。キャプションがやや残念なので1900円は高いかな……って気もするけれど、ニッチな世界での需要を考えると妥当なのかな?

 

実はこれ、全部”HN”さんという方のコレクションなんですけど、よくもまあこんなに殺人鬼の作品ばかり集めたな……と思ったらなんと獄中の彼らと文通したりもしてるようで、一体何者なんだ?と気になったものの、残念ながら氏に関しての詳細は無く。名前もHNというイニシャル(?)のみです。しかしシリアルキラーアートのコレクションを始めた経緯についてはパンフレットに書かれておりましたのでちょっと紹介。

もともとアートコレクターでもあったHN氏。サスペンス映画に出てくる殺人犯たちが持つ「得体の知れない暗い穴」に興味を抱き、その流れでキャラクターのモデルとなっているシリアルキラーの存在を知る。ある日偶然アートコレクター仲間が見せてくれた”殺人鬼ゲイシー”による油彩画。その存在は知りつつも生で作品を観たことがなかった彼は、実物と対面した瞬間「得体の知れない暗い穴」が目の前で開いているのを感じてしまう。そして”これは生半可な気持ちで手を出したらアカンやつや”と思いつつも、その暗闇の正体が何なのか知りたいという好奇心に抗えず、ついにシリアルキラーアートの蒐集に踏み込んでしまう……。
あれよあれよと集めはじめて気が付いたら1000点超えてたわ、まあ人に自慢するもんでもない孤独なコレクションではあるけれど、個々人がそれぞれ抱えているであろう穴と向き合う場になればと思って展覧会を開催することにしたので良かったら観てね、というのが今回の趣旨だそうです。よって氏のコレクションの中でも犯人個人の内面を感じさせるものを中心に選定されているとのこと。そんなわけで、彼らが持っていた書き込み入りの聖書とか、季節のご挨拶の手紙なんかもあったりします。

手紙ね、かなりヒャッハー感じだったり中二系の文体なのかなと思いきや、内容はいたって普通だったりして、シリアルキラーと一口に言っても普段の性格までが破綻している人ばかりじゃないんだなというのを改めて認識し……逆にそれがおっかないよな~と思ったり(もちろんマッドな内容のものもある)。普段は家族思いの良きパパだけど、実は別荘の敷地内に無数の死体を埋めてましたという人もいたし、生活のために闇社会で生きなくちゃならなくて結果幾人も殺めたって人もいて(双子のギャングことクレイ兄弟。トム・ハーディー主演で映画「レジェンド 狂気の美学」公開中)、いろいろですよね。

気になる作品レベルはというと、「シリアルキラー」「アート」とかで検索してもらうとわかるのですが、それなりに画力のある人からチラシの裏の落書きまで……という感じ。
そもそも何でこんなにシリアルキラーの絵が作品として流通してるわけ?というところなんですが、日本の刑務所に比べて米国は死刑囚であろうとかなり自由な環境が与えられており、通信の自由も表現の自由も認められているのだとか。
その中で、油絵の経験があったジョン・ウェイン・ゲイシー(HN氏が実物観てコレクション沼にはまった作品の作者)が自作の絵を獄中から売り出したら大当たり。世の中いろんな人がいるもので、こういう囚人にファンレター送ったりする人が結構存在するみたいなんですね。そんなわけでゲイシーは、ファンレターでリクエストを募ってオーダーメイドの絵を描いて販売していたそうです。それを聞いた殺人犯たちは俺も私もと絵筆を取り始めます。絵心ある人は張り切るわ、下手であっても「ヤバさが伝わる」と逆にウケたりするわで、一大ブームとなりました。どうしても絵が描けない人はポエムを売ったりする始末で、お前ら反省してないやろって感じなんですが……。
で、当然そういうのに興味がある好事家は高い金払ってでも買うだろうなっていう図式はわかるんですけど、それとは違う、片っ端からゲイシーの絵を買いまくったという「とある団体」や「個人」。一体どんな人たちだったのか。
……それは、彼の絵をこの世から消滅させるために購入した人たちです。被害者の身内はもちろん、そうでなくとも殺人を犯した上に獄中から金儲けや承認欲求を満たすだけのために絵画の販売を行う囚人たちに嫌悪を抱く人もいたでしょう。そういった人たちが世に流通した絵を買い漁り、焼却し、この世から消滅させていきました。中には金銭的に厳しくとも、絵の存在が許せずに無理をしてでも購入した人もいたでしょう。こういった心理状況下の美術品流通もあるのだなというのが今回の展示で一番衝撃的でした。

 

さて、実際に展示されているものは上手いものからチラシの裏レベルまでと先に書きましたが、その中でも上手い下手は別として、印象に残っているものが以下。(※画像の引用はパンフレットより)

ヘンリー・リー・ルーカス
「羊たちの沈黙」をはじめとするハンニバル・レクタ―のモデルとなっている一人。オーティス・トゥールというパートナーとともに300人から1000人以上を殺害したと自供してはいるものの、虚言癖があるため実際のところは不明。幼いころに母親から精神的な虐待を受けており、10代から殺人を繰り返して母親も殺害。投獄され、本人が「釈放されたらまた人を殺しますよ」と言ったにもかかわらず仮釈放審査委員会はそれを冗談ととって釈放したところ殺人を繰り返してまた投獄。死刑が確定していたけれど、当時テキサス州知事だったジョージ・W・ブッシュが証拠不十分を理由に異例の死刑執行延期。その後心臓発作で獄中死した。
ヘンリー、絵は正直拙いんですけど、アイスキャンディーの棒を集めて作った寄木細工のような時計が力作。
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ジョン・ウェイン・ゲイシー
前述のとおりHN氏をシリアルキラーアートコレクション沼に落とした張本人。表向きはビジネス成功者で、チャリティーイベントなんかでも活躍する愉快で気の良いおじさん。イベントではピエロの”ポゴ”に扮していたことから、”キラークラウン”の異名を持つ。これがスティーヴン・キングの『IT』に登場する殺人鬼ペニーワイズのモデルの由来。
幼いころ父親から虐待や罵倒を受けて育つ。その頃「お前はホモだ」と罵られたのがきっかけだったのか、ゲイシーは少年にターゲットを絞って犯行に及ぶようになります。最終的に被害者は33名。なんと投獄中面会に来た少年を監視カメラの死角におびき出して34人目にしようとしたっていうから、大胆且つマジで殺人中毒だったんだなっていう……。
死体は自宅の床下に隠されており、警察の捜査が入った時には腐敗が酷い状態で、細菌感染や悪臭、毒ガスとの闘いとなり、捜査と分析は命の危険を伴うまでのものとなったそうです。ゲイシーはよくそんな環境で生活していられたよな……。
彼のアートワークにはそれほど興味を持たなかったのだけれど、ミケランジェロのピエタやディズニーキャラ、ワーナーのキャラなんかも結構描いており、キャラクターものはやはりチャリティーイベントで子ども受けするから練習とかしてたのかな……なんて思ったり。
ピエロの絵が圧倒的に多いのですが、このピエロシリーズ、かのジョニー・デップも持っているらしいです。
ゲイシーは約4000枚ほどの油絵を描いたそうですが、前述のとおり「とある団体」や「個人」が私財を投じて買い漁って焼却したため、その多くはこの世に残っていません。
ちなみにHN氏は37点の作品を持っているとのこと。
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ハーバート・マリン
上記2人に比べて段違いにまともな家庭で育ったうえにIQも高かったそうですが、薬物中毒の果てに統合失調症となり、「アインシュタインが大地震や津波から人類を守れとオレに囁いている」とかなんとか言い始めて13人殺害。現在終身刑で服役中。
どういう意味があるのかわからないけれど、彼の絵にはヒマラヤのような高い山の連なりが頻繁に出てきます。これがなかなか幻想的。
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ウェイン・ロー
個人的にこの人の作品が一番良かったです。スナップ写真に刺繍を施したアートワークで、かなり繊細な作品。刺繍糸の組み合わせも美しく、現代アートとしても成り立つような気がしました。
母がヴァイオリニスト、父親が国連大使というエリートな家庭に生まれ、台湾からアメリカへ移住。一度台湾へ戻るも永住権を得て再び渡米。
これだけ読むと順風満帆な人生ですが、父親からのプレッシャー等があったようで、大学進学を機に過激な差別的発言を声高に繰り返すようになり、結果周囲から孤立します。エリートの自分がぼっちになるという現実が受け入れられなかったのか、1992年の12月、学内でライフルを乱射して2人を殺害、数人に重軽傷を負わせる事件を起こして終身刑となりました。

 

アンソニー・アレン・ショア
比較的若い女性から少女といっていいくらい若い女の子を暴行して殺害したペドフィリア。結紮と竹の棒(または歯ブラシ)を使って締め上げたことから「止血帯キラー」なんていう二つ名が付いています。
なんとも胸糞悪い殺人犯ですが、絵がKING OF POPこと江口寿史風で結構上手かった。

 

他に、いかにもなデスメタル系イラスト等ありましたがその辺りは割愛。ノリで描いてるんだろうな~という人から、いったいこの人はなぜこのモチーフを描いたのだろう?と不思議な気持ちになるものまで様々でした。
観終わって心に引っかかったのは、やはりこうした作品をこの世から抹消すべく購入する人の存在。焼却されるために買われていくという流通経路は、このジャンルならではだと思います。カウンセリングの一環でなしに獄中から販売目的で発表される作品がある限り、その活動は行われ続けるのだろうなと思うと何とも切ない気がします。

しっかりと作品に向き合いたい方は平日に行かれることをお勧めします。土日はめっちゃ混んでいてキャプション読むのが本当に辛いから!作品で気持ち悪くなることは無いと思うけど、人口密度にやられる可能性は大。今後こういった展覧会が開かれることはあまりなさそうな気がするので、今週末までですのでお早めに!

 

「特別展示 HNコレクション/シリアルキラー展」
会場:ヴァニラ画廊
会期:~2016年7月10日
時間:月~土 12:00-19:00  日 12:00-17:00(入場は閉館30分前まで)

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