「プラド美術館展ースペイン宮廷 美への情熱」展行ってきた

@三菱一号館美術館

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このポスターを見て、「あら可愛い」と心惹かれた方も多いのではないでしょうか。
三菱一号館美術館5周年記念企画展のうちのひとつ、「プラド美術館展」。2002年に西洋美術館で、その後2006年に東京都美術館で開催されたプラド美術館展。東京では3回目の開催となりますが、今までとは異なり、”プラドの中の小品で特に優れたもの”を集めた展示となっています。
この展覧会は実際にプラド美術館で2013年に行われて好評を博し、バルセロナを経て来た巡回展。小品というと、サイズが小さくて迫力が少ないと思われがちですが、そんなことはありません。大きい作品は大工房で作られるため、そのほとんどを弟子が描き、作家本人はあまり筆を入れないことが多いのですが、小さな作品はほぼ100%作家本人が描くそうで、謂わば純度の高い粋を極めたものと言えます。いやほんと、小さいからってなめちゃいけなくて、私は語彙が少ないんでうまいこと言えないですけど、すごく良かったのです。目利きが選んで自信のあるものだけを持ってきて、東京に小さなプラド美術館を作ったという感じ。それもそのはず、一連の展覧会の指揮監督を務めたマヌエラ・メナさんが日々美しいものに囲まれながら考察を繰り返して感覚を研ぎ澄まし、選びに選んだものだけがやってきているのだとか。(会場では”バルセロナでやった時よりも良い”という声も……)
普段は保存の関係上なかなか貸出されない板に描いたものや銅の板に描いたものが全体の半数を占めているというのも、プラド美術館の本気を伺わせます。(※写真は主催の許可を得て撮影しています)
会場

展覧会は”1.中世後期と初期ルネサンスにおける宗教と日常生活”から始まります。
宗教に支配されたこの時代、王侯貴族の人々は私的な祈りや瞑想のため、また自然を感じるための小さな作品を注文することが多かったそうです。展示室に入ってすぐ、板の表裏に描かれた≪聖母の婚約≫と≪苦しみのキリスト≫や、メムリンク≪聖母子と二人の天使≫。これらはまさにそういった目的で使われたのでしょう。≪聖母の婚約≫には寄進者が描きこまれています。≪苦しみのキリスト≫の方は、聖骸布にジュリアン・オピーのTシャツかってくらいバッチリ顔が描いてあってちょっと面白かったですが……。
さて、今回のお目当てだったボスの≪愚者の石の除去≫。ボス特有の奇妙なまぬけさと中二病を引き寄せるセンスは言わずもがな、彼らしい風刺画となっています。当時ネーデルランドで広まった「頭の中の小石が大きくなると愚か者になる」というトンデモ話。これを信じる無知な民衆と、その無知につけ込んで大金をまき上げようとする悪徳医師を絵にしたもの。「早く石を取ってください、私の名前はルッベルト・ダスです」と天地に書かれたこの絵には、さまざまなアトリビュートが込められています。(ルッベルト=お人好しというところからも、この絵の寓意が伝わってきます)
2016年2月よりボスの祖国オランダで没後500年の大回顧展が行われるそうで、回顧展がはじまるまでのギリギリの期間、三菱一号館で展示されるという貴重な機会です。

≪愚者の石の除去≫ ヒエロニムス・ボス
≪愚者の石の除去≫
ヒエロニムス・ボス

続いて”マニエリスムの世紀””バロック:初期と最盛期”へと移ります。このあたり、宗教・神話に加えて人物画や静物画が増えてくるのですが、静物というとどちらかと言えば寓意に満ちた薄暗いものや、静謐な印象が多い中で、ヤン・ファン・ケッセル(1世)の≪静物 花≫はとにかく明るかった!また、ヤン・ブリューゲル(2世)の≪地上の楽園≫は、どこか伊藤若冲の≪鳥獣花木図屏風≫を思い出させるような印象でした。両方とも小さなサイズの中に木の葉一枚・花びら一枚まで丁寧に描きこまれています。
この”描き込み”と”描きこまれた中で眼差しを向ける一点”という鑑賞の仕方も今回の展覧会のポイントのひとつで、それをテーマにしたポストカードがショップで販売されています。
全景とクロースアップしたものとの2枚セットなのですが、並びがとても素敵で、揃えた状態で飾っておきたくなるセンスの良さ。(今回もショップの内装がめちゃくちゃかっこいい)
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その後展示は”17世紀の主題:現実の生活と詩情””18世紀ヨーロッパの宮廷の雅””ゴヤ”(なんとゴヤオンリー!)、そして最終章”19世紀:親密なまなざし、私的な領域”へと続くのですが、通常であれば良質とはいえ作品がこれだけ沢山きていれば疲れてしまうところなのに、一切鑑賞疲れしなかったのは、リズミカルな展開になっているからかもしれません。特に最後の”親密なまなざし~”は、私的な領域と謳うだけあって、とてもリラックスできる空間でした。

”現実の生活と詩情”では、17世紀になってジャンルとしての市民権を獲得した風景画にも焦点を当てており、中でもベラスケスの≪ローマ、ヴィラ・メディチの庭園≫は、今まではアトリエで描いていた風景画だけど、この際思い切ってイーゼルを持ってその場で描こうぜ的試みで作成されたものであり、ゆえに臨場感あふれる描写に成功した記念碑的な作品です。良く見ると布を仕舞おうとする人、それをなんとなーく眺める警備(?)の人など、その場のリアルなのほほん感が伝わってきます。

≪ローマ、ヴィラ・メディチ≫ ディエゴ・ベラスケス
≪ローマ、ヴィラ・メディチ≫
ディエゴ・ベラスケス

また、キャビネット・ペインティングという17世紀ネーデルランドで発展した分野にも着目されています。キャビネット・ペインティングとは、ヨーロッパの名所で見かける、所謂富裕層が邸宅の中に観賞用小部屋を作ってそこの壁に小品をびっしり飾るアレですが、何せがっつり間近で観る用の謂わば「描かれた珍品」というスタンスで作られるものだったから、美しかったり上手かったりだけじゃ駄目だったんでしょうね。
ヤン・ファン・ケッセル(1世)が”世界”を64にカテゴライズし、そのうち現存する39点の中から”アジア”に分類されているものが今回来ていましたが、博物画のようでとても興味深かったです。
うーん、これが他の作品とともにびっしり壁にあったら圧迫感強いけど、これくらいのボリュームで飾られていたらすごくセンス良いかも。

≪アジア≫ ヤン・ファン・ケッセル(1世)
≪アジア≫
ヤン・ファン・ケッセル(1世)

こういった私的な空間での鑑賞は、19世紀、個人の時間・空間を重視する習慣が増してから更に重宝されるようになったようです。とはいえ、最終章”親密なまなざし~”の部屋に来ている作品たちは、そのセレクトによって印象が異なるだけなのかもしれませんが、キャビネット・ペインティングのように好奇心をかきたてるというよりも、リラックスして静かに鑑賞するのに適しているといった印象をうけました。
中でも惹かれたのがカルロス・デ・アエスの≪ヤシの林(エルチェ)≫と≪エルチェのヤシ≫。額装込みで素晴らしかったです。この絵があったら天気の悪い日も、寒い冬の日も、すがすがしい空を思い描いて気分転換できるんじゃないかな。

≪ヤシの林(エルチェ)≫左 ≪エルチェのヤシ≫右 カルロス・デ・アエス
≪ヤシの林(エルチェ)≫左
≪エルチェのヤシ≫右
カルロス・デ・アエス

ポスターになっているアントン・ラファエル・メングスの≪マリア・イルサ・デ・パルマ≫は”18世紀ヨーロッパの宮廷の雅”の部屋にあり、小品ながら美のオーラがびしびしと伝わってきましたし、同じ部屋にあるビセンテ・ロペス・ポルターニャの≪聖ヨセフの夢≫と≪世ペテロの解放≫は、ショタ好きの方にはたまらない神々しさです。また、ゴヤの部屋では≪酔った石工≫と≪傷を負った石工≫に思わず笑ってしまいました。同じ構図なのに表情が少しゲスくなるだけで印象が全くかわる!≪傷を負った石工≫は、今回の作品群の中ではかなりの大きめサイズです。(酔った方は小さい。写真下段参照。しかし表情は酔った石工の方が面白い)
肖像画ルーム
ゴヤルーム
さすが目利きが選び抜いただけあって名品ばかりが揃っています。もし自分がこれらの絵を私的な空間に飾ることができるならば、どれを迎え入れようか考えながら観るのも面白いかもしれません。

また、先にも書きましたが、今回もショップが本当にかっこよく、中でも絵画をモチーフにしたアクセサリーがめちゃくちゃ可愛かったです。某夫人は悩みに悩んだ末にピアスを購入していましたが、どれか一つなんて選べない、全部欲しい!と思ってしまうほど皆愛らしいデザインでした。

めちゃくちゃかっこいいショップの内装
めちゃくちゃかっこいいショップの内装
とにかく可愛いアクセサリー
とにかく可愛いアクセサリー

残すところあと少し。東京にやってきた小さなプラド美術館は本当に宝箱のような展覧会です!

プラド美術館展―スペイン宮廷 美への情熱
会期:~1月31日(日)
会場:三菱一号館美術館
時間:10:00~18:00(金曜、会期最終週平日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
※月曜休館(1月25日は開催)

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