山口晃展「前に下がる 下を仰ぐ」 行ってきた

@水戸芸術館

さて、今回の展覧会。水戸は新作メインだというではないか。果たして間に合うのかしら……?ヂョン・ヨンドゥ展に行ったとき、次回展のチラシが置いていなかったけど大丈夫かしら……?などと心配になったりしたのですが、実際に発表されたメインビジュアルを見るとそれはとても素晴らしく、今までの画伯らしさを引き継ぎながら新しい色彩や構図に進化しており、ああそうだった「いろいろ心配したけど、ちゃんと良いものが生み出されるんだよな。やっぱり山口さんはすごいなあ」と思うところまでが山口晃クラスタの様式美だったわ~と安心したりしたのが1月。そして2月の初日、4月の図録発売記念トークショー、5月のあたまと3度にわたって楽しんでまいりました。
maenisagaru

日曜美術館や紙面、他の方のSNSやブログでも、とても詳しく展覧会の詳細が紹介されているので、私は自分がいいなと思った点を。

【導線】
この展覧会の導線は極めて特殊であり、あっちへフラフラこっちへフラフラができません。できないんだけれど、そもそも展覧会って広々として見える展示室にも見えない道がちゃんとあって、一見自由に見回ってよさそうなんだけれど、大方の人は順路通りに進んでしまう。その順路をこの展覧会では敢えて通路として制限しており、しかも人と行き交う動作が明示される。これは実際展覧会の会場で経験しないとわからないことですが、あちら側へ行こうとしたときの「あ!……おお!!」というちょっとした感動は、明和電機とかピタゴラスイッチを見た時の感動に似たアレです。
山口さんの展覧会というと、「山口晃展」と「山愚痴屋澱エンナーレ」の2種類がありますが、今回の展覧会はそのボーダーが薄くなったような構成です。いつもは「ここからここまでは山口晃展で、こっちが澱エンナーレ」という具合に会場が区切られていたけれど、今回は山口晃展の動線を澱エンナーレが担っているという感じがしました。これは見てのお楽しみ。

 

【空間】
会場には様々な山口さんらしい空間が作られており、今回の目玉のひとつでもある「電柱」もそうなのですが、個人的に山口さんらしいなと強く惹かれたのが、展示室の一角にある不思議な空間。<フール>という大きな「愚」の字を小さなたくさんの「智」の字で書いた作品の横にある、二人掛けの狭い空間です。
何のためにあるか、何を意味しているのかはわかりませんが、「これぞ山口さん!」と痛烈に感じる作品。実際に腰を掛けられるようになっています。これも見てのお楽しみ。

エルメスで登場した電柱も。さらに細かく作ってあった。
エルメスで登場した電柱も。さらに細かく作ってあった。

 

【ポータブルマン/ベンチ】
今回様々な新作が出ていましたが、中でも<ポータブルマン>と<ベンチ>は素晴らしかった。こういう、機能美というか、コンパクトな中に一式詰まってる感に弱い自分にとってはたまらない作品でした。山口さんの作品を観て思うのは「なぜ世界はこのようにならないのだろう?町も、人も、こうなったらもっと楽しいのに」ということ。最新の何かでもなく、お金をうんとかけた何かでもなく、”ちょっと気の利いた何か”が現実の世界にもあったらいいのに。せっかく日本にいるのだから、西洋のあれやこれやばかりを模すのではなく、山口さんの絵に出てくるような、日本で楽しめるものを大いに楽しいんだらいいのにな、といつも思うのです。

 

【最後の部屋】
さて水戸芸といえば最後の部屋。

最後の部屋は「TOKIO山水」。エルメス、館林と観てきたこの絵ですが、今までとはまた違って見えるのは、それほど広い空間でないところに「とん」と置かれているからでしょうか。
濃密な迫力があり、絵の中の雲がまるで自分の周りに漂うかのような、幽玄な空間となっていました。
絵に対峙して、良く知る街並みをモノクロに置き換えて見下ろして。そして<TOKIO山水>に別れを告げ、さあ堪能したと振り返ると、今回最大の目くらましに遭います。みんなの良く知る”あの扉”のその先は、はたして何所につながっているのか。
一歩々々慎重に踏み出して、ひらけたそこで告げられる「汝を知れ」。

この展覧会のところどころに、自分の中で何が柱になっているのかとか、最期のときに向き合うのは自分であるとか、「自分探し」という鼻白む言葉じゃなくて、もっと普通に冷静に自分の方向性を考えるというメッセージが垣間見えたのは私だけではないはず……

twitterのUIを紙に模してつぶやく<紙ツイッター>や、バッドエンドのピュグマリオン&ガラテア的九相図に至る<九相圖>、そして<来迎圖>、<日々のよしなし言>。一見、いろいろなことをやっていて面白いという面に目を奪われて見逃してしまいそうだけれど、実はいろいろな手法で一つのテーマに対してアプローチを変えながら、だたただ純粋な一点追及しているのではないかな、と思うのです。

 

3か月続いた展覧会ももうすぐ終わり。今回は、いつもと少し違った趣の山口さんの展覧会でした。
この展覧会は一切巡回しません。ここでしか見ることができないもの、体験することができないもの、この週末が最後のチャンスです。

 

山口晃展 「前に下がる 下を仰ぐ」
会場:水戸芸術館
会期:~ 2015年5月17日[日]
時間:9時30分~18時(入場時間は17時30分まで)

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