ホイッスラー展行ってきた

@横浜美術館
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ホイッスラーという画家をご存じでしょうか。わたくし、ザ・ビューティフル展で≪ノクターン≫と≪ヴェニスセット≫を観るまでは「なんとなく名前は聞いたことある」という程度の認識でした。≪ノクターン≫を観てからは、自身の絵を美術批評家ジョン・ラスキンに酷評されてブチ切れ、名誉棄損で訴えて勝ったはいいけど裁判でお金使いまくっちゃったよ~だから≪ヴェニス・セット≫っていうヴェネチアの版画作ったんでみんな買って下さい……というトホホなエピソードの人という印象が加わり、なんとなく人物像が浮き彫りにされてきたのですが、この展覧会に興味を持った決め手はミュージアムカフェマガジンという、フリーペーパーです。
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こちらに載っている辛酸なめ子さんのホイッスラー漫画がめちゃくちゃ面白い。直情的且つ炎上商法系、しかしモテてしまう皮肉屋のダンディことホイッスラー。そんな彼がどういった絵を描くのか気になるではないか……ということで観に行ってきました。
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※写真は美術館の許可を得て撮影しています。

音声ガイドはリリー・フランキーさん。この声がまたいいのよ~♡♡ オススメします。
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展示は大きく3つに分かれており、人物→風景→ジャポニズムへと続きます。展示を観る前にホイッスラー自身について簡単に触れますと……

ホイッスラーはマサチューセッツ生まれのアメリカ人。幼いころをロシアで過ごし、画家を志してパリに渡ります。パリではギュスターヴ・クールベの影響を受けてレアリスムに傾倒。その後ロンドンへ移住し、当時勢いのあったラファエル前派の画家たちと親交を深めます。彼らの影響もあってか日本美術に興味を覚えてメイド・イン・ジャパンものを収集しはじめ、次第に作品にもそれが反映されるようになりました。その後前述のラスキンとの裁判で破産……しかしここで終わらず、制作を続けます。
54歳の時に17歳年下のビクトリアと結婚。ケータイ小説の主人公ばりに世界の中心で愛を叫ぶがビクトリアは病に侵され他界。最愛の妻を失った悲しみに情緒不安定になるもなんとか持ち直し、国際彫刻家・画家・版画家協会会長に就任します。

というわけで、もともとヨーロッパの人ではなかったんですね。あくまで私的な見解ですが、この「ヨーロッパ人ではなかった」「アメリカ(=国としての歴史は浅い)出身だった」という一種のコンプレックスが、彼の根底にはあったのではないかなと思うのです。いくら彼が自他共に認める優れた画家であっても。ゆえに、批判に対して過剰に反応したり、パトロンであれ友人であれ、ちょっとでも意見が違うと咬みつくなど、人づきあいも苛烈だったのかもしれません(『敵を作る優美な方法』なんていう本も出版)。

そんなホイッスラーですが、皮肉屋だけど会話はウィットに富んでいてエレガント。身なりもお洒落で絵も品があるとくれば、それはそれはモテたことでしょう。実際にホイッスラーは様々な女性を描いているのですが、私が推したいのは少女がモデルになっている絵!

左≪ライム・リジスの小さな薔薇≫ 右≪リリー:楕円形の肖像画≫
左≪ライム・リジスの小さな薔薇≫
右≪リリー:楕円形の肖像画≫

 

 

中でも個人的な人物画イチオシは≪ライム・リジスの小さな薔薇≫。見よ、この美少女っぷりを!カヒミ・カリィかよ……。他にも、当時の会いに行けるアイドル的存在のコニー・ギルクリストを描いた肖像などもラファエル前派のキレイ系とは違う路線で、なんというか、かわいい系なんですよ。こっちの方が日本人受けはいいんじゃなかろうか。

手前≪黄色と金色のハーモニー:ゴールド・ガール―コニー・ギルクリスト≫
手前≪黄色と金色のハーモニー:ゴールド・ガール―コニー・ギルクリスト≫

このゴールド・ガールのタイトルを見ると、黄色や金色といった”色”やハーモニーなどの”音楽用語”が使われていることがわかります。ホイッスラー作品の特徴のひとつに、このような「色や音楽用語を用いたタイトル」が挙げられますが、これは「絵画は色彩が奏でる音楽である」という意味ではなく、単に「絵に物語性や意味を持たせたくない」という意思から来ているもの。ホイッスラーは絵を、メッセージを伝えるためのツールとして使おうとは思わなかったということなのでしょう。

 

とはいえ、絵に何の感情も込めないわけではなく……。エッチングを見ると、クールベが描き続けた働く農民然り、テムズ川で働く人々の活気ある生活が見事に描かれています。これは彼らに対するホイッスラーなりのリスペクトがあったからこそ表現できたのではないでしょうか。

手前≪ブラック・ライオン波止場≫(「テムズ・セット」より)
手前≪ブラック・ライオン波止場≫(「テムズ・セット」より)

※今回たくさんの版画が来ていますが、銅版画(エッチング、ドライポイント)やリトグラフ(トランスファーリトグラフ、リトティント)を使い分けて情景を表現する技術やセンスも見どころです。

 

さて、笑うところではないけれど笑ってしまったのが「ピーコック・ルーム」。
ピーコック・ルームとは、ホイッスラーによる現存する唯一の室内装飾で、彼のパトロンであるフレデリック・レイランドのためにデザインされたダイニングルームです。……というと聞こえがいいのですが、これにはとんでもないエピソードが。
そもそもこのピーコック・ルームの内装はほかのデザイナーの仕事で、ホイッスラーの担当はこの部屋に飾る一部の絵画のみ。しかし内装が自分の絵に合わないとごねた結果、「じゃあちょっとだけだったら変更していいよ」とパトロンからお許しが出ます。しかしホイッスラーはパトロンが出張に出たのをいいことにほぼ全面改装し、まるで違う部屋に……。しかも「まだ帰ってこないで」とパトロンに釘をさし、主人のいないうちに内覧会を開催。パトロンが帰宅すると当然の如くギャラを請求するなど、三玄院に勝手に上がりこんで襖絵を描いた長谷川等伯も流石にここまではしないよね(笑
でもまあ、ドヤ顔でギャラを請求するだけあって、造りは素晴らしいんですよ。

≪青と金色のハーモニー:ピーコックルーム≫ 会場では再現映像を鑑賞することができます。
≪青と金色のハーモニー:ピーコックルーム≫
★会場では映像によってピーコック・ルームを鑑賞することができます。

 

そんな唯我独尊男子のホイッスラーも人の子、以前は辛いことが続いたり人間関係に疲れたり(たぶん自業自得)すると、徴兵を理由にチリへ現実逃避の旅に出たりもしたのでした。

≪肌色と緑色の黄昏:バルパライソ≫
≪肌色と緑色の黄昏:バルパライソ≫

リリーさんもお気に入りのこの絵、バルパライソの夕暮れを描いたもので、とても素敵な1枚です。観ていて面白いなと思ったのは、正面に立って絵の中で視点を移動させると、絵の印象が変わって見えること。たとえば左側に比重を置いて絵を見ると「陽が沈んだ後の空」に見えますし、右側の雲が赤く染まった部分に注目すると、「今まさに陽が落ちようとしている」ように見えるのです。ホイッスラーはこの絵を機に移りゆく空模様を素早く描きとめる技術を身につけたということですが、絵と対峙すると、刻々と変わる夕暮れ時の移ろいの一瞬だけを収めるのはもったいない、「移ろい」自体を絵に込めたいと考えていたのではないかと思えてなりません。

ところでこちらの展覧会、キャッチコピーには”ジャポニスムの巨匠、ついに日本へ”とあります。他の唯美主義作家が日本美術への憧れを自身の作品に反映させた時、まず「ジャポニスム」というより、どちらかというと「シノワズリ」に感じられます。それはホイッスラーも同じ。その後だんだんと皆さん浮世絵にシフトしていくんですよね。そしてここからがそれぞれの個性の見せどころ。
展覧会ポスターにもなっているこの2点。以前は女性の肖像画といえど視線は正面で「ビシ!」っと背筋を伸ばしたポーズが主流でしたが、浮世絵の影響を受けてか、全体的にS字にしなを作ったポーズに変わってきています。

左≪白のシンフォニー No.2:小さなホワイト・ガール≫ 右≪白のシンフォニー No,3≫
左≪白のシンフォニー No.2:小さなホワイト・ガール≫
右≪白のシンフォニー No,3≫

 

鳥居清長 左≪美南見十二候 品海汐干≫ 右≪美南見十二候 六月 品川の夏≫ 
鳥居清長
左≪美南見十二候 品海汐干≫
右≪美南見十二候 六月 品川の夏≫

 

有名な≪ノクターン≫シリーズも広重の江戸百景に通じるものがあり、手前にボリュームを置いた構図など、元ネタ(?)と比較して観ることができるようになっていて面白いです。さて、この≪ノクターン≫シリーズ。いくつもの作品が展示されており、油彩から版画までさまざま。その中で気になったのがこの2点。

左≪ノクターン:ソレント≫ 右≪青と銀色のノクターン≫
左≪ノクターン:ソレント≫
右≪青と銀色のノクターン≫

≪青と銀色のノクターン≫、当時の評は「霧のかかったテムズ川」とのことだけれど、うーん……霧もかかっているかもしれないけれど、闇に溶けていく可視ギリギリの風景の輪郭を描きたくて描いたものなのではないかと思うのです。日が沈んだら今日はおしまいと絵筆を置くのではなく、夜との境目や夜に踏み込んだ世界を、目で見えている薄墨の世界をどうやって描くか。夜を想う、まさにノクターンに挑戦したのではないでしょうか。※ちなみに今回は来ていませんが、ラスキンと裁判になった件のノクターンは、本当に真っ暗です。

 

展示を通して見ると、唯美主義一本でもレアリスム一本でもなく、本当にいろいろなテーマで絵を描いた人なんだなァと一括りにできない感がありますが、かといって芯はブレていない不思議なおじさんホイッスラー。生涯ダンディでいた彼にははっきりとした美意識があり、それが時代を超えて人々を惹きつけているのでしょう。

ホイッスラー展 (横浜美術館)
会期:2014年12月6日(土)~2015年3月1日(日)※木曜休館
時間:10:00~18:00 ※入館は17:30まで

 

【オマケ】
ホイッスラー展はショップも面白い!ヒゲグッズが満載です。
パパブブレのキャンディは大人気で、1月中旬には品切れが予想されています。追加販売の予定はないとのことなので、気になる方はお早めに!
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